コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

皇族身分を失い、没落した“宮家”の地獄――悲しき妃殿下の「アアこれで万事休す」告白

2021/01/09 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

――悔しいのはわかりますが、「バチがあたる」かぁ(苦笑)。

堀江 「貧すれば鈍す」などとも言いますが、あれほど仲がよかった夫の(元)宮さまとの夫婦関係も悪化したまま、老老介護の様相まで呈して来ます。

「御湯なども、そばについていないと、あぶなくてならない。何かにつけて、それはそれはやかましい(1947年/昭和22年1月12日)」とか。痛ましいことですが。

――伊都子さまが老老介護かあ。使用人の数も足りなくなっているのでしょうね。美輪明宏さんが、人生は「正負の法則」に貫かれている、すごく幸せなことがあると、それと同じだけ不幸なことがあることも覚悟しなさい、って言ってたのを思い出しました。

堀江 そう。「早く死に度(た)い(1947年/昭和22年1月16日)」との言葉も飛び出していますね。この年の3月、財産税を梨本宮家では納め終えたのですが、同年10月には「臣籍降下」、つまり皇族としての身分を失う大事件が起き、さらにその翌日、蔵に残ったわずかな品物までが盗まれるという事件も起きました。

 それも、伊都子さまの夫である(元)宮さまの「背広」などだけでなく、毛糸で編まれた冬用の下着、靴下、シャツ、パジャマなどがまるごと盗まれるという悪質なものでした。憐れに思った昭和天皇が、自分の下着を届けてくれるなどして急場をしのぎましたが……。

――昭和天皇から下着の差し入れですか!? 皇族の身分を失い、毛糸のパンツすらも失って、まさに没落ですね……。

堀江 非常に寒々しい(笑)。まさに「斜陽族」ですよ。1950年(昭和25年)のお正月には伊都子さまの目前で(元)宮さまが昏倒なさいます。お正月、それも早朝のことで医者を呼んでも来てくれないまま、静かに亡くなってしまうという悲劇でした。梨本の(元)宮さまは、明治以降の皇族ではじめて火葬になった方としても知られますね。

 また、伊都子さまのお名前は、1958年(昭和33年)に巻きおこった「ミッチーブーム」の熱心すぎる「アンチ」として一部には有名かもしれません。

 皇太子殿下(現・上皇さま)と、美智子さま(現・上皇后さま)のご結婚に真正面から伊都子さまは反対なさっていた有力者の一人なわけですが、彼らがご結婚を批判した理由の一つが、は身分云々の問題より、実際のところ、「嫉妬」ではないかと僕は思ったりするのです。

――美智子さまに嫉妬ですか。面白くなってきました(笑)。

堀江 昭和天皇の皇后だった良子(ながこ)さまが、ミッチーに激怒した理由のひとつとして伊都子さまが記したお言葉があります。まとめると「私(=良子さま)の結婚の時に使われた馬車は四頭立てだったのに、彼女(美智子さま)が使う馬車は六頭立て」というお言葉なんですが、ここに「すべて」が現れていると思うのですね。

 美智子さまのご実家である正田家は「日清製粉」の経営者一族です。戦後、ますます成功しつつあった大実業家です。そんな実家を持つ美智子さまのお姿は、戦後、財産も名誉もほとんどすべてを失い、存在を否定されたに等しい旧皇族・旧華族にとっては、あまりに妬ましく見えたのではないかな、と。

 「皇后になる可能性まで、あなたは我々の手の中から奪っていくのか」という恨みですね。

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