「父を助けてください」向精神薬で“廃人”にされた親、老人ホーム施設長のあぜんとする本音
娘さんの話を聞いた緒方さんは、Hさんが入っている施設を訪ねた。すると驚くべき実態が明らかになったのだ。
「うすうす感じてはいましたが、Hさんがあっという間に寝たきりに近い状態になったのには、向精神薬の多用が原因でした。施設に入居したことで突然環境が変わり、不安になったHさんが介護拒否をし、ときにはスタッフに暴力をふるい、暴言を吐くようになったため、施設はクスリで静かにさせることにしたのです」
緒方さんは、耐えられないというような悲痛な表情を見せた。
おそらくこれが、中村さんが父親を入れている有料老人ホームのスタッフから「父親に投与したい」と言われた「ボーっとさせるクスリ」なのだろう。中村さんの父親のホームは、まだクスリを使用していいか家族に許可を求めただけマシだったのかもしれない。
Hさんはそのクスリの量や種類を増やされ、一気に廃人になったのだろう。それほどHさんの変貌は激しく、そして急だった。Hさんの娘さんが「せめて昼は起きていてほしい」と、緒方さんにすがったのもよくわかる。
しかし、施設長の言葉はそれだけでは終わらなかった。
「『私は、Hさんのことが嫌いです』と言われたんです」
もちろん介護に携わる職員なら誰もが聖人であれ、というつもりはない。人間だから相性もあるだろう。だが、それを大っぴらに口にするとは。いくらスタッフがHさんの暴力や暴言で傷ついていても、「嫌い」と言ってしまうのは介護職失格ではないか。
さらに、この施設長からはこんな“本音”も出たという。
「Hさんのような人は、一番重度の要介護5になって、特養に入るのが一番いいんですよ」と。
緒方さんが同業だから本音が出たのかもしれないが、あまりに残酷だ。いやしくも介護を生業(なりわい)としている人が、ここまで言ったことにあぜんとする。
そして同時に、こういう施設が実際にあるということに戦慄した。これも立派な虐待だ。クスリではなく、毒だ。
――続きは1月10日公開