老いてから金に執着するようになった母ーーその悲しい理由とは? 「年金で足りない費用」めぐる家族関係
“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)
そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。
鷲津さんの話を続けよう。鷲津さんの母親はウツ傾向が強く、自傷行為を繰り返し、今はグループホームに入っている。認知機能はそう落ちていないが、お金への執着が顕著だという。その理由を聞いてみると……
(前回:母が自傷行為で「閉鎖病棟に入った」――半年後、退院してから息子が覚えた“大きな違和感”)
母が金に執着する理由
母親がそれほどお金に執着するのには、理由があるのか? という問いに、「実は……」と鷲津さんは心当たりを明かしてくれた。
「お金に困ったことがあるというわけではないのですが、昔、借金の保証人になって、当時住んでいた家を手放すことになった経験があるんです」
母親がお金に執着する理由が、これで腑に落ちた。母親にとっては、終生忘れることのできない痛恨のできごとだったのだろう。しかも、借金を踏み倒したのは、実の娘――。つまり鷲津さんの姉だったというのだ。
当時、姉の夫は事業を営んでいた。商才がなかったのだろう、と鷲津さんは考えている。資金繰りを任された姉が借金をするようになったのだ。
「姉とは10歳離れているんです。姉には、幼い頃からコツコツ貯めた貯金を貸してと言われて戻ってこないという悲しい思いをさせられたし、住み続けたかった実家にも住めなくなった。でも幸い当時はまだバブルの余韻があって、家を手放して、姉の借金を返済してもまだマンションを買えるくらいのお金が残ったんです」
でも、姉との関係は戻らなかった。
連絡が取れなくなった姉
「このトラブルのあと、姉とはずっとつかず離れずの関係でしたが、母がグループホームに入るときに、母の年金で足りない分の費用をどうするかという話になったとたん、姉と連絡がつかなくなりました。母のところに顔も出していないようです」
歳の離れた姉は、鷲津さんが子どもの頃かわいがってくれたという思いがあるので、心底姉を恨んだり、憎んだりしているわけではないという。
「あきれている、というのが正しい表現ですかね。お金に苦労する人は一生苦労するし、一生お金に不自由しない人もいる。これはそういう星の下に生まれたとしか言いようがない」
母親の病気によって、家族関係も変わった。
変わったというなら、鷲津さん自身もそうだ。家を建てるときに仕事の形態を変えた鷲津さんだったが、その後新しく事業を起こし、今はそれがメインになっている。
「金に執着する母を見ていると、つくづく金のない老後はみじめだと思う」――そんな思いが、鷲津さんを新しい事業に向かわせた。
「不動産の運用会社を起こしたんです。まあ、つまり大家業です。地元にアパート5棟のほか、首都圏にも所有しています。といっても簡単ではないし、大金が入ってきても右から左に流れていくという感覚ですよ。手元に残るのはそう多くない。母にも、学生の娘にもまだお金はかかります。正直、自分の老後の不安はぬぐえません」
これがいつまで続くんだろう、と鷲津さんはため息をついた。
「母には長生きしてほしい。でも長生きすればそれだけコストもかかるんですよね。生きている限り……」
コストですか、と返すと、鷲津さんの顔が少しゆがんだように見えた。何億も金を持っていると思い込んでいるのに、母親のつらさも消えそうにない。