コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

「末期がんの父、離婚した息子」娘が見つめた家族の結末――母にとっては「願ってもないこと」と語るワケ

2020/11/08 18:00
坂口鈴香(ライター)

 在宅介護をして2年あまりで、父親が亡くなった。

 四十九日が過ぎ、納骨をした。そして初盆を迎え、1周忌を終えても、弟は家族のもとに戻らなかった。

「要は、母が弟を放さなかったんです。20年ぶりに戻ってきた息子と離れたくなかったに違いありません。母は介護が必要な状態ではありませんが、買い物や通院など一人では不便なので、一人暮らしをするのは無理だと弟に訴えたんでしょう。弟も優柔不断だから、母のそんな様子を見ていると、家族のもとに戻るに戻れず、ズルズルとこちらでの生活を続けるしかなかったんだと思います」

 そうこうしているうち、業を煮やした弟の妻から離婚届が送られてきた。

「母にとっては願ってもないことだったんではないでしょうか。こうなるまでに、弟と奥さんの間でどんなやりとりがあったかはわかりません。でもこのときには弟も覚悟ができていたようで、すんなり離婚が成立しました」

 こうなると母親は強かった。父親が遺した金で、弟に手に職をつけさせたのだ。ずっと非正規でしか働いたことのなかった弟は、この資格のおかげで、50歳間近にして地元の建設会社に就職がかなう。

 お見事。というか、母親の本領発揮というか。いつまでたっても、母は母。情けないほど、息子も子どもだ。

 それでも母親は息子との二人暮らしに満足し、糸野さんの足が遠のいていても気にするふうはない。終わりよければすべて良し……と言ってよいのだろうか。

「今は弟が仕事でいない間に、ときどき実家の様子を見に行く程度です。息子のためにと思うのか、母もちゃんと家事をしているようで、皮肉なことですが安心ですね。とはいえ、母も80代。この生活がいつまで続けられるか……」

 弟の子どもの養育費や、子どもとの関係など、詳しいことは弟とは不仲なのでよくわからない、と糸野さんはいう。しかし、もし今後母親に介護が必要になったら、さらに母親が亡くなって弟が一人になり、そして老いていくとしたら、この母子関係も姉弟関係も、はなはだあやうい。

 母親の介護はまだ何とかなるだろう。糸野さんもいるし、弟もいる。でも、母親がいなくなったら? 家族を失い、一人になった弟は、その後どう生きていくのか。母親が自分の家族を奪ったと、恨むことにならないだろうか。もしも、介護が必要になった母親に、その恨みを向けることになれば……? 筆者の杞憂であればいいのだが。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/11/09 19:52
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