老いた母親と息子の屈折した愛情ーー「孝行息子」と評判だった男たちの暴走
ある介護サービス提供事業所の幹部は、「母と息子、二人で暮らしている場合は特に、お母さんに虐待によるアザや傷がないか注意して観察するようにしている」と明かす。
母との関係に息苦しさを抱えていた娘たちが声をあげはじめて久しい。「母娘はわかりあえる」というのはもはや幻想だと、世の中の人たちも気づき出したが、老いた母親と息子の屈折した感情はまだ表面化していないようだ。
今回は、そんな息子と母親の関係を、姉として危惧する糸野圭子さん(仮名・53)に話を聞いた。
糸野さんは、母親(81)がいる実家に顔を出すことが少なくなった。新型コロナウイルスのせいではない。車で15分ほどの距離なので、行こうと思えばいつでも行けるし、そのつもりで今住んでいるマンションも実家の近くに買ったのだ。
父親が健在だったころまでは、実家には頻繁に通っていた。それが一変したのは、父親が病気になり、弟(50)が実家に戻ってきてからだ。
「弟は離島が好きで、若いころから離島の民宿でアルバイトをしながらダイビングやサーフィンをするような生活を送っていました。大学も中退していますし、親が紹介した仕事についても長続きせず、両親にも心配をかけてばかり。だから、実家からは遠いし、不安定な仕事だけれど、好きなことを続けながら生活できるのならひとまずそれでもいいだろうと、親も半ばあきらめていたんです」
そして弟はその地で結婚。30代半ばになっていた。仕事はまだアルバイトで、収入も少なかったものの、相手の女性は地元の人で、妻の両親に援助してもらいながら妻の実家で暮らしていたので、生活はまずまず安定していたようだった。2人の子どもにも恵まれた。
「といっても、私は弟の結婚式に出席したくらいで、ほとんど連絡することもありませんでした。学生時代からよく問題を起こしていた弟とは、仲も悪く、会っても話すことがありません」
ところが7年ほど前、糸野さんの父親に末期がんが見つかった。
――後編は、11月8日公開