『ザ・ノンフィクション』“幸せな家庭”で救われたいと願う人「あの日 妹を殺されて 後編 ~15年後の涙と誓い~」
カズキは幼少期に母親が父親を殺害するという悲惨な経験をしている。将来はリハビリなどを支える理学療法士を目指しているが、その理由も「人を支えたい」というものだった。
結婚して子どもが生まれ、順調そうに見えたカズキの生活は、妻への暴力で崩壊する。離婚され娘には会えない中、草刈はカズキに「(カズキは過去に理学療法士になりたい理由を)人助けのような仕事がやりたい」って言ってたけどお前が患者や」と的確に指摘していた。
それこそ草刈のような強い信念に基づき、実績を残す「人を救う」人もいるが、カズキのような「本当は自分が救われたがっているのに、人を救いたがる人」も、少なくないように思える。カズキはまず自分自身を救った方がいいのではないだろうか。
また、カズキは家庭願望が強かったというのも切ない。自身の不幸な経験から、幸せな家庭を築くことで救われたかったのかもしれない。だが「幸せな家庭を築きたい」と「幸せな家庭を築くことで救われたい」は違う。後者の場合、本当の目的は「救われたい」であり、別にそれは「幸せな家庭を築く」以外にも方法があるだろう。家庭以外にも自分を救う手段はあるはずなのに、家庭という単位に固執してしまう人は、カズキ以外にもいるように思える。
31歳で親から「矯正」を依頼されるエリ
不思議だったのはエリだ。エリは逮捕されるようなことはしていないのだが、荒んだ生活を送っていることにを両親から相談された草刈は「更生させるのは誰でも一緒」と受け入れた。この状況だけ見ると10代の不良少女をイメージするかもしれないが、エリは小学生の娘がいる31歳のシングルマザーだ。
番組内でのエリは、関西ノリで軽口を叩く明るい女性という感じで、エリの「荒れた生活」が果たしてどのような荒れ方だったのかは見えてこなかった。エリは親から「あんたが育て方間違えたから、今娘を(代わりに)育ててんで」とまで言われたという。
一方でエリも、親に言われっぱなしで娘まで取り上げられ、かつ31歳と大人なのだから、娘を奪還し二人で暮らす選択肢だって取れるはずだ。それをしないあたりは、「荒んだ生活」の自覚がエリにもあったのかもしれない。いったい、エリは何をしでかしてしまったのだろう。
10代の荒れる少年少女に対しては支援の手はあるが、30代の荒れる大人に差し伸べられる手の数は少ない。「大人なんだから自分でなんとかしろ」はもっともなのだが、自分でなんとかできないから荒れているのだ。荒れた大人はどうすればいいのだろう。
次回のザ・ノンフィクションは『禍の中でこの街は 前編 ~新宿二丁目 コンチママの苦悩~』。LGBTが集う新宿二丁目で、50年以上のもっとも長い歴史を持つショーパブ「白い部屋」。72歳のコンチママが新型コロナウイルスの猛威に立ち向かう。