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『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』日本で最も早く新型コロナに翻弄された街「コロナと中華街 ~私はこの街で生きていく~」

2020/09/23 17:24
石徹白未亜(ライター)

 「(店を)開けても地獄だし閉めても地獄」という隆治の発言は、中華街に限らず今全国で飲食業や宿泊業、接客業をしている人の本音だろうと思う。

 総務省統計局では5年に一度、「経済センサス」という経済活動の状態の調査を行っているが、平成24年における同資料を見ると、「宿泊業、飲食サービス業」従事者は日本全国で542万832人とあり、合計に占める割合は9.7%とある。働いている人の10人に1人は飲食、宿泊業従事者であり、500万人以上が「開けるも地獄、閉めるも地獄」といった状況下にいるのだ。

 そして宿泊業、飲食サービス業が苦境にある、ということは、そういった事業者に商品を提供している「卸売り、小売り」業界も苦戦するということだ。番組内でも郁瑛が早朝に横浜の市場で海鮮を仕入れていたが、日ごろはセリの声がにぎやかに飛び交うという市場も閑散としていた。

 なお経済センサスによると「卸売業、小売業」の従事者は1,174万6,468人で全体の21%を占め、ほかのどの業種よりも従事者が多い。宿泊業、飲食サービス業と足すと、全労働人口の3割にもなる。3割の人がかつてない危機にいて、そしてコロナの「終わり」は現時点で誰もわからない。

 郁瑛は番組の最後に、このコロナ禍の状況をマラソンにたとえていた。耐え忍びリタイアせずに走り続けていかないといけない、というのはまさにマラソンだが、マラソンならまだ42キロ先にゴールという終わりが明確にあるから頑張れるところがある。コロナはマラソンよりもさらに過酷ではないだろうか。

鬱憤は立場の弱い人に向かう

 私は新型コロナウイルスそのものの脅威はもちろんのこと、感染拡大で委縮や忖度を余儀なくされる世界において、鬱憤やストレスが蓄積されることのほうが怖い。そういったストレスのはけ口は、立場の弱い人に向かいがちだ。外国人排斥、差別はそのもっとも安直な例だろう。中華街に届いた心無い誹謗中傷の手紙はその一例だ。

 さまざまな不満、不安によるストレスや鬱憤は外国人排斥、差別の風潮に向かい、そして世界がギスギスしていく構図は、世界恐慌から第二次世界大戦の流れに少し似ているように思う。国民の不安、不満をそらすため、外国に対し強硬な姿勢を取り、国民の不満をガス抜きしているのだろうなと思える政治家もいる。

 私たち一人ひとりも心に余裕があれば人に優しくできるが、貧しくなってもそれを続けることはなかなか難しい。半年前に「皆でこのピンチを乗り切ろう」と言っていた人たちは、今はどうだろう。ゴールの見えない中、ギスギスしていく世の中を不安に思う。

 次週の『ザ・ノンフィクション』は「あの日 妹を殺されて 前編 ~罪を憎む男が選んだ道~」。大阪で会社を営む草刈健太郎は元受刑者を雇用し、社会復帰の支援を行っている。妹を殺され喪った過去のある草刈がなぜ受刑者支援を行うのか。その日々を見つめる。

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/09/23 17:24
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