海外
『アメリカン・セレブリティ―ズ』著者インタビュー

BTS、こんまりも包容する『アメリカン・セレブリティーズ』――海外セレブウォッチャーが語る、“熱狂”の理由

2020/09/19 17:00
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

レディー・ガガの生肉ドレス

――『アメリカン・セレブリティーズ』はまさにその視点から書かれているように感じます。セレブの言動やキャリア形成から、アメリカの時流を見るようになったきっかけはなんでしょう?

辰巳 もともと、ポップカルチャーと並行して社会経済のニュースが好きだったので、その2つがオフィシャルなかたちで絡み合ったコンテンツが多いアメリカの大衆娯楽に特に惹かれた流れです。

 特に09年のオバマ政権発足以降、政治や社会問題にまつわるエンターテイナーの発信が目立っていきました。その象徴が、本の第一章で紹介した歌手のレディー・ガガ。たとえば、日本でも話題になった「生肉ドレス(10年の「MTV ビデオ・ミュージック・アワード」にて着用された、すべて生肉でつくられたドレス)」は、実は米軍の同性愛差別的ルール撤廃運動の一貫でした。このように、米国で注目度が高い社会問題の存在を認知していないとポップカルチャーのコンセプトが掴みにくくなったので、より調べるようになった面もあるかもしれません。

――これまでにも過激なパフォーマンスでフェミニズム論争を起こしてきたマドンナ、ダンフール紛争解決を働きかけていたジョージ・クルーニーら、政治的発信を続けてきたセレブはいましたが、現在との違いは?

辰巳 いわゆるリベラルな政治観やプロテストを発信するスターは明らかに増えました。背景には、ソーシャルメディアが普及したことで、セレブ側がいろんな発信をしやすくなった環境変化が存在します。加えて、一般の人々もSNSによって発信力を持っていきました。もちろん、政局も深く関係してくる。こうしたものごとの相乗効果によって、セレブの政治的発信が増えたと同時に、そうした行動を求める消費者も増加しました。結果、「SNS更新頻度が高いセレブが注目度の高いソーシャルイシューについて発言していない」だけで叩かれたりする状況も生まれます。

 たとえば、16年、テイラー・スウィフトとカニエ・ウェストの対立が激化したころ「(そんなくだらないことより)もっと話すべき重要な問題がたくさんある」とツイートしたセレーナ・ゴメスが、「ブラック・ライブズ・マターについて何も語らないくせに」と批判される一悶着が起きたりしました。

 2000年代との違いを端的にまとめるなら、「2010年代のポップミュージックでは“リベラルな政治関与”が“選択肢”というより“必須条項”になった」旨をメディア「Pitchfork」が伝えたのですが、その表現が思い出されますね。

――アメリカ社会の変化のスピードはすさまじいですが、そんな中で初期のキャリア/キャラクターから辰巳さんの想像を超えて“変貌”したセレブはいますか?

辰巳 衝撃度だと、キム・カーダシアンですね。リアリティショーで当たって、「下世話な話題ばかりの三流セレブ」ポジションで話題を連発した結果、世界随一のインフルエンサーとして億万長者になり、アメリカ合衆国大統領をも動かすパワープレイヤーになったという……。キムもトランプ大統領も、リアリティショーとソーシャルメディアの名声を駆使してパワーを強めた人なので、まさに2010年代セレブリティカルチャーの象徴かもしれません。

 あと、本を書いて気づかされたのは、ビヨンセがいかに革命家であるか。彼女は大々的にフェミニスト宣言を行ったり、国民的スポーツイベント「スーパーボウル」でブラック・ライブズ・マター的なパフォーマンスを行って強い反発を受けたりと、スーパースターとしてリスキーな表現を続けているんです。その結果、ショービズ全体でフェミニスト宣言が女性セレブのスタンダードになったし、ポップスターのプロテスト表現も増えていった。ビヨンセはリベラルなセレブリティとして「正解な選択」をとる優等生、みたいな風評もあるのですが、実のところ、その「正解な選択」自体、彼女自身が押し進めたもの……ビヨンセによって「新たなる業界スタンダード」として普及したものなのではないか、と。

 また今年、自身で監督した映画『ブラック・イズ・キング』も公開されたのですが、そこでは、スピリチュアルなかたちで、アフリカン・アメリカンという人種とルーツそれ自体を祝福する試みを行っていて。ソーシャルメディア普及以降、身近な存在のスターが増えたというのは本で書いたのですが、ビヨンセは今だ「ビッグな存在」のスーパースターとして大義を果たそうとしているように見えます。

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