TikTok「ビルボードチャートの歴史を塗り替え」BLM運動「白人セレブや企業のスタンダード刷新」エンタメから米国の“変化”を見る! 【辰巳JUNK×渡辺志保:後編】
渡辺 ビジネス的といえば、BLM下において、ヒット曲がラップ一色になったことも興味深かったです。先ほど辰巳さんが解説されたように、レディー・ガガが力強いアルバムを出す一方で、BLMをテーマにした楽曲を発表した若手ラッパーたちも存在感を示しました。
リル・ベイビーやダ・ベイビーといった、普段は社会的・政治的な内容のラップから距離を置いていた気鋭のアーティストらもコンシャスなラップを発表していたし、かねてから人種における不平等さを糾弾していたミーク・ミルら中堅ラッパーも、力強い楽曲をリリースしています。ヒップホップやラップの強さは、社会問題が噴出した時に、すぐにそれを作品にするところ。すぐにアクションをとって自分の意見を表明する、そういったジャンル/カルチャーの強さを見せられたような気がします。
個人的に、20年の音楽シーンは、昨年からの流れを受けて、もっと明るいポップなヒット曲が主流になるのかと思っていました。でも、新型コロナのパンデミックやBLMで、そうではなくなった。ヒットする音楽は時流を映すものなのだと、つくづく感じました。
辰巳 バーチャルで今年6月に開催された、「BETアワード」(黒人や他のマイノリティ人種に贈られる文化賞の授賞式)も素晴らしかったですね。パフォーマンスするアーティスト全員に出したい声明があったそうで、だからこそ緊急事態下のバーチャル開催なのに、これだけ充実したアワードになったのだと思います。
渡辺 「BET」は「Black Entertainment Television」の頭文字で、黒人のためのエンターテインメント・ケーブルTV 局が主催するアワードなんです。今年は、オープニングからプロテストソングとして歴史に残るパブリック・エナミーの「Fight the Power」のリメイク版映像が流れ、その後に、人権活動家である大ベテラン、ハリー・ベラフォンテのスピーチ映像やジェームス・ブラウンの「Say It Loud, I’m Black & I’m Proud」を流し、プリンスが20年に同アワードで披露したスピーチの映像も流れた。ブラックミュージックのヒーローたちがどんどん現れてくる演出で、非常に力強さを感じました。最後はアリシア・キーズが警察による暴行などで命を落とした犠牲者をたたえる新曲「Perfect Way to Die」のMVで幕を閉じた。
今年のBETアワードは、今回のBLMのムーブメントにおける意思表明として、BETの底力を見せつけられたような気がします。今後、アカデミー賞やグラミー賞、MTVのVMA(ビデオ・ミュージック・アワード)において、この社会問題をどのようにアワードに組み込んでいくのか、そういった部分にも注目したいなと思いますね。