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2020年上半期、米国をエンタメから読む【前編】

オスカー「『パラサイト』快挙」スーパーボウル「ジェイ・Zで人種問題回避」エンタメで見る米国の変化【辰巳JUNK×渡辺志保対談】

2020/09/04 13:30
堀川樹里(ライター)

 NBAのスーパースター選手だったコービー・ブライアントが、13歳の次女と搭乗していたヘリコプターが墜落し、即死。その夜、開催されたグラミー賞授賞式はコービー追悼式のようになるという悲劇的なスタートを切った2020年。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大やBLMのうねりで、価値観も大きく変わった。

 そこで、昨年末に引き続き、ブラックミュージックやヒップホップに詳しいライターの渡辺志保さんと、ゴシップとカルチャーの両視点からショービズ界に斬り込むライター辰巳JUNKさんに、20年前半(1月~6月末)に起こったトピックを振り返りつつ、アメリカの“変化”について語ってもらった。

オスカー『パラサイト』快挙の意味

第92回アカデミー賞授賞式での『パラサイト』陣(getty imagesより)

――毎年、年が明けてすぐに開催されるアワードシーズンを迎えるハリウッド。今年のアカデミー賞(オスカー)は、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞・監督賞・脚本賞などを勝ち取り、「歴史的快挙」とまで言われました。お2人は、これをどうご覧になりましたか? 

辰巳JUNKさん (以下、辰巳)オスカー会員が事前にメディアのインタビューで、『パラサイト』について「普通におもしろい」「多くの会員から愛されている」と評価していたし、順当という感じがしますね。外国語映画では、去年、メキシコを舞台に中流家庭のハウスキーパーを描いた『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督、アメリカ・メキシコ合作)が作品賞の有力候補として注目を集めていましたが、アーティスティックな作風だったこともあり、オスカー会員から「秀でているのはわかるが(内容理解が)難しかった」的なことを言われていて。その点、『パラサイト』は、経済格差というグローバルな社会問題を扱いつつ、ストレートにおもしろいと思えるわかりやすさが強みになったのでは。

渡辺志保さん (以下、渡辺)『パラサイト』は監督賞・作品賞など多部門にわたって受賞し、大快挙でしたね。これは私にとっては驚きでした。オスカーは有色人種や外国語の作品に対して、積極的に複数のトロフィーを授ける印象はあまりありませんでした。辰巳さんがおっしゃる通り、昨年は『ROMA/ローマ』が作品賞を逃してしまったし。オスカー側が、多様性というか、マイノリティへの視点を持っていたんだと感じました。

辰巳 あと、アメリカではポン・ジュノ監督の人気がすごかった。

渡辺 「VOGUE」「ヴァニティ・フェア」など米エンタメメディアの取材を前もって受けていましたが、そこでのすさまじいキャラ立ちを感じました。

辰巳 セレブたちにも人気でしたよね。「アカデミー賞はローカルな賞」とさらっと発言して、それが喜ばれたり。それと『パラサイト』は、“インターネット発のアカデミー賞作品”といわれているんですよ。もともと作品自体、細かな伏線に加えて韓国のローカルネタが多い。仕掛けが多いミステリーとしてネット上で考察合戦が盛り上がるバイラルコンテンツになっていました。

渡辺 SNSで種明かしをするという流れですね。

辰巳 同作のアメリカでの配給会社が、ネットマーケティングに力を入れていたらしいです。これまでだと、アカデミー狙いの映画は街中に看板を出して宣伝することにお金をかけていたけど、『パラサイト』はネットの力でオスカーにたどり着くことができた新しいパターン。

渡辺 今年のオスカーって、『ワンス・アポンア・タイム・イン・ハリウッド』『ジョーカー』など、「いかにもオスカー」な作品が並びましたよね。並み居る競合を抑えて、ポン・ジュノにここまでスポットライトを当てたのが、繰り返しますけど、米エンタメシーンでこれまであったかなといった驚きがあります。それを受けて、今後の動きが気になるところ。今年は外国語映画にスポットライトを当てたから、来年からは通常のオスカーに戻るのか。それとも、あくまでアメリカ中心主義的なオスカーではなく、もっと世界に開かれたオスカーとして発展していくのか。

辰巳 実は今年のオスカーは、マイノリティ人種や女性のノミネートが少ないことで反発が強かった。グレタ・ガーウィグ(『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の女性監督)や『ハスラーズ』の主演女優ジェニファー・ロペス(J.Lo)も絶対にノミネートされると言われていたのに、落とされました。まぁ、J.Loは2月に開催された「スーパーボウル」のハーフタイムショーを大成功させて評判を上げましたが。

――ポン・ジュノ監督が受賞後のインタビューで、非英語圏映画における「字幕の壁」が崩れてきたといった旨を話していましたが、動画・音楽ストリーミングサービスの普及により外国コンテンツに触れる機会が増えたことが、今回の『パラサイト』躍進の一因なのでしょうか?

渡辺 昨年、アメリカの音楽業界の方とお話をする機会があったのですが、まさにその通りで、アメリカのユーザー/リスナーの外国語コンテンツを受け入れる人たちの割合が、今まで以上に多いそう。そのきっかけとなったのが、スペイン語圏であるラテン系コンテンツの爆発的ヒットだったそうですが、それがBTSなどのブレ―クにもつながっているということなのでしょう。

――BTSは音楽だけでなく、彼らの存在自体がアメリカでも大きな影響力を持っていますよね。

渡辺 DJのスティーヴ・アオキさんにインタビューした時にうかがったのですが、日系アメリカ人としてロサンゼルスで生まれ育ってきた彼が感じたのは、白人には白人のヒーローがたくさんいるけど、「アジア人のステレオタイプやロールモデルといえばジャッキー・チェン」で、そこからずっと抜け出せなかったということ。なので、BTSのブレイクは、アジア系アメリカンの子どもたちのロールモデルとして大きな役割を果たしている、とおっしゃっていました。今、BTSから影響を受けている子が大人になったら、また違う価値観が生まれそうな感じはしますね。

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