性犯罪者・DV加害者は「排除すればいい」のか? 「孤立が再犯率を上げる」現場の専門家が訴えること
――そうしたプログラムは、何をもって「終了」と考えるのでしょうか?
栗原 私がやっている加害者臨床の落としどころは、「自立」です。加害者たちは、自分をわかってほしい一心で暴力を振るい、承認欲求を満たそうとします。ならば、相手から認めてもらうことを願うよりも、自分が相手を認めることで承認欲求を満たしていくのだと伝え、自立へつなげるんです。これが先ほど言った「選択理論」の考え方ですね。その後、相手の支援を考えられるようになると暴力がなくなっていくので、そこが第二の落としどころです。
斉藤 私は「プログラムは生きている限り死ぬまで続く」という考えで、「これができたら終了」という落としどころはありません。加害者臨床の中には「依存症は治る」という考え方で行うプログラムもありますが、私は「依存症は、回復はあっても完治は困難だ」という考え方がベースになっています。
私の元には、12年間クリニックに通い続けている痴漢加害者がいますが、「病院に来ないとプログラムでやったことを忘れてしまう」と言います。12年間通っていても、「今日は疲れたな。こんな日は痴漢でもするとスッキリするんだよなぁ」と、自然に“認知の歪み”が出てしまうんですよね。そこで、プログラムを続けている人ならば「いや、これは警告のサインだ。こういう日こそ、病院に行かなきゃ」という思考回路になります。しかし、プログラムから離れて半年~1年ほどたってしまうと、「今までずっと痴漢してないし、たまにならバレないんじゃないか」と考えてしまい、問題行動をとることがあります。
要するに、認知の歪みはその人の脳内にしっかり刷り込まれてしまっているので、消し去るのは難しい。でも、プログラムを受け続けていれば、認知の歪みに対する反応の仕方を主体的に選択できるようになるんです。
第4回へつづく
(有山千春)
■斉藤章佳(さいとう・あきよし)
大船榎本クリニック精神保健福祉部長(精神保健福祉士/社会福祉士)。1979年生まれ。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして、約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。その後、2020年4月から現職。専門は加害者臨床で、現在まで2,000名以上の性犯罪者の治療に関わる。また、都内更生保護施設では長年「酒害・薬害教育プログラム」の講師をつとめている。
■栗原加代美(くりはら・かよみ)
NPO法人女性・人権支援センターステップ理事長。同団体にて、 DV・ストーカー・虐待・加害者更生プログラムの講師を務めながら、被害者の回復プログラム・家族面談・ カップルカウンセリング・テレビ出演、DVやスト ーカー防止のセミナー講師として活動する。