「女性は痴漢で気持ち良くなる」と信じていた――性犯罪加害者の言葉から、“治療”の在り方を問う
刑期を終え満期で出所するも、43歳のときOさんはまた再犯し、今度は11カ月間服役した。もうこれ以上は痴漢を繰り返せないと、今度は自らクリニックを訪れた。
「私はずっと、自分を隠しながら生きてきました。痴漢って、自分のことを知られていない相手だから触れるんです。知っている人だと、『Oさんに触られた!』とすぐ事件になりますよね。私からすると、痴漢は“お互い知らない相手”だから成立する犯罪。そんなふうに生きてきたから、周囲の人ともうわべだけの人間関係になるし、ミーティングでも自分を出せなかったんだと思います。当然、孤立していました。でも二度目の通院では、もう痴漢の問題で通っているというのが周囲に知られていたので、隠す必要がなくなりました」
自分のことを知られたくなくて、「鎧を着たまま人と話していたようなものだった」とOさんはふり返る。
「41歳で執行猶予判決が出たあとも、一度目の服役のあとも、痴漢をするための環境を自らつくろうとしていたところがあります。私の場合、最も痴漢のリスクが高まるのは“電車に乗るとき”なのですが、『早い時間なら空いているから、電車に乗っても大丈夫』『今日は天気が悪いから、電車に乗るのもしょうがない』と、なんとか理由を見つけて電車に乗ろうとしていたんです。だから、二度目の出所のあとから現在までは、どこへ行くにも必ず車で移動するようにしたんです。刑務所は“絶対に痴漢できない環境”でしたが、それと同じように、“したくてもできない環境”を、自分でつくらなければなりません。ここ数年は、もし電車に乗ったとしても、『痴漢をしたくならないかもしれない』という気もしています」
それは、クリニックに通ううちに生じてきた、ある変化に影響されたからだという。
「自分が痴漢をしたと周囲にバレたら、否定され、除外されるだけだと思っていました。でもいざ開示してみたら、『あなたが更生しようとしているのなら、私が話を聞く』と言ってくれる人がいて、驚きました。とはいえ、今まで私がしてきたことをそのまま開示すると、セカンドレイプになる可能性もありますから、慎重に話すようにしています。もし、私がまた痴漢をすれば、これまで話を聞いてくれた人たちにとっては、『知らない人が痴漢をした』ではなく、『Oさんが痴漢した』となります。そんな状況にはしたくない。だからもう、自分は痴漢をしたくならないだろうと思っているんです。もちろん、それでも『絶対にやらない』とはいえない状況です。だから、これからも電車には乗りません」