【『統合失調症にかかりました』さいこさんインタビュー】病気になって失ったもの、得たもの
――作中では、「見えないもの」との闘いなど、さいこさんの経験した統合失調症の症状が、コミカルに描かれてる部分が多いですが、漫画にする上でどのような工夫をされていたのでしょうか。
さいこ つらくて苦しかったことを重々しく描くより、誰でもとっつきやすいような表現にしたほうが見やすいんじゃないかなと思って、最初の『統合失調症にかかりました』はそうしました。「そんなことする!? そんなふうに考える!?」と発症時の行動は今思い出してもツッコミどころが満載なので、それをそのまま漫画にしてみたらああいう感じになったというか……。コミカルに描いてるせいか、「ほんとに苦しんでない」「病気を軽視しているように見える」といった声もいただいたりしますが、実際本当にしんどかったですよ。「一生これが続くのか? どうやって生きていけばいいのか? 誰か助けて」って24時間365日思ってましたから。
また、サイゾーウーマンさんで連載していた、別視点から病気を描いた続編の『統合失調症にかかりました〜ニャンサイド〜』(全31話。現在は完結)はあえて少しシリアス調に描きました。本編と同じエピソードですが、表現方法を変えると全然違うような印象で伝わるかと思います。
――ただ体験を描くだけでなく、読者に見やすくかつおもしろく読んでもらえるような工夫をされていたのが、作中から伝わってきました。漫画に描き起こす中で、ご自身にとってつらかった作業や印象深いシーンがありましたら教えてください。
さいこ 今回、書籍になる際に描き下ろしした『死にたくなんか、ない。』(下記参照)ですね。この話は描くべきかかなり悩んだお話でした。少し省略した話をSNSには載せたんですが、全部を描けなかったんです。というのも直接的に「死」を意識して、実行に移そうとしたのが自分の中でいまだに傷になってるからだと思います。この時は、頭の中が一番ぐちゃぐちゃで限界でした。ぐちゃぐちゃで、整理しきれてないままでした。今回、描き下ろしという形で整理することができて、少し前に進めた気がします。あと、個人的に印象深いのは、陽性症状(※1)の妄想を描いた『米騒動』と急性期(※2)の外出時のトラブルを描いた『ギャル男に引かれる』エピソード。これは絶対漫画に描こうと思いました(笑)。
※1陽性症状:幻覚や妄想といった、本来あるはずのないものが現れる症状。統合失調症を特徴づける代表的な症状といえる。
※2急性期……前兆期から続いて現れる症状経過。幻覚や妄想などの陽性症状が目立つようになる。感情の起伏が激しくなったり、強い緊張感が認められる。周囲から見ておかしな言動が見られるが、自分自身が病気であるという認識をもてなくなってしまうことが多い。