コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

「母親と一緒にいるのが子の幸せ」? 障害のある娘を介護する親、「子どもと離れられない」と語る言葉の先

2020/08/30 18:00
坂口鈴香(ライター)

 そんなこともあり、井波さんは圭さんが入れる施設を探す踏ん切りがつかなかったのだが、友人の話を聞いて一歩を踏み出す決心をした。といっても、施設探しではない。子離れの一歩だ。 

「障害者向けのヘルパーに登録したんです。圭の送迎があったり、ホームにいる義父母のところからいつ呼び出されるかわからなかったりすると細切れ時間しかないので、働くことに躊躇していたんですが、圭と同じ障害者向けのヘルパーなら、それくらい時間でも働けそうだったので、思い切ってやってみることにしました」

 今も圭さんと一緒にいたい気持ちは変わらない。でも、その気持ちは「圭は自分と一緒に生活するのが一番幸せで、他人と生活すると苦しい毎日になるんじゃないか。体を壊してしまうんじゃないか」といった不安からではないかと、冷静に自分を見つめることができるようになった。

「子どもは母親と一緒にいるのが一番幸せ、って、母親のただの思い上がりですよね」

 それが正しいのかどうかはわからない。でも、そう思えるようになっただけでも、井波さんにとっては大きな変化なのだ。

 障害者の親としての経験があるから、ヘルパーとして障害者に寄り添うことができるはずだと、くだんの友人は背中を押してくれたという。井波さんなら、仕事にも新しい幸せを見つけられるに違いない。

坂口鈴香(ライター)

終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終末ライター”。訪問した施設は100か所以上。 20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、 人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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最終更新:2020/08/30 18:00
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