コラム
【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

女官が妃殿下に“激痛”の制裁!? スパルタすぎる“お妃教育”、知られざる実態【日本のアウト皇室史】

2020/08/01 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

このおすべらかしの写真を撮った直後、
ベンジン事件の悲劇が起きたと思われる(getty imagesより)

―――どんなスパルタ教育が書かれているのですか?

堀江 秩父宮雍仁親王と勢津子妃のご成婚当日、儀式途中から、女官による「最初が肝心」式の厳しい「お妃教育」が早くも施されていたことがわかります。
御成婚は明治35(1902)年6月のことで、大正天皇のときから皇室の新しい結婚式となった御所での「神前式」が踏襲されました。このとき、雍仁親王は26歳、勢津子さまは19歳になったばかりです。

 勢津子さまは当時としては、かなりハイカラな上流家庭に育ちました。旧・会津藩主だった松平家のご令嬢です。しかし、家風が独特というか、お父上は爵位(子爵)を息子に譲り、自身は外交官として自活することをお選びになっていますね。勢津子さまも、このため旧大名家の姫としては異例なほど、自由に生きることができていたのです。

 海外で外交官のお仕事をなさるお父上と共にアメリカ・ワシントンで思春期をすごし、当地の「フレンドスクール」を卒業してから帰国したばかり、という「帰国子女」でした。そして、お血筋は高貴ではあっても、ご身分自体は「平民」……。

―――いかにも宮中の古株女官から叩かれそうですね!

堀江 まさにそう。一般庶民でも、結婚式の衣装替えは大変ですけれど、当時の皇族妃ともなるとそれはもう……。

 お二人のご成婚の日時は昭和3(1928)年9月28日でした。午前2時に起床、髪を「おすべらかし」に結い上げるところから、全てが始まります。深夜にいたるまでの怒涛のスケジュールの詳細は省きますが、印象的なのは勢津子妃がご自分を(ママゴトの)「人形のように扱われた」といっていることです。例えば、おすべらかしに通称「十二単」の姿で儀式に出て、写真を撮りおえたら、当時の宮中でもっとも公式なドレスとされた「マント・ド・クール」に着替えねばなりません。着替える際には、髪も油で固めたおすべらかしのままではダメですから、油分をなんとベンジン液で拭き取るのです。

 油絵を描いたことがある方なら知っているでしょうが、絵の具の拭き取りにも使う、異臭のする液体です。しかも大量にベンジンを使ったため、目の上にかぶせてあった布に次第に染み、目に入り込んで激痛が……。

―――わわわ、それは大変です。妃殿下をそんな目に遭わせた担当女官には、どんな処分が……。

堀江 詳細はわかりません。しかしご成婚当日に妃殿下が失明の危機に見舞われるって、ひどいですよね。「一時は完全に目の前が真っ暗になって何も見えなくなりました。この大事なときに視力が戻らなかったら」……と焦る勢津子妃ですが、なんとか視力も痛みも回復し、大至急で次のドレスに着替えるのです。

 それでも担当者を責めることは何も書いていないのが、さすが勢津子妃、器の大きな女性でいらっしゃると思うのです。けれど、着替えはおろか、靴を履く時さえ、すべてを女官におまかせするのが妃殿下の「日常」であると気づいたことには、非常に落胆したとはっきり書いておられますね。

―――ご成婚当日、早くも妃殿下としての生活に落胆した勢津子妃ですが、秩父宮邸に帰った後も続く、女官の「洗礼」とは!? 次回に続きます。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2020/08/02 11:11
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