『ザ・ノンフィクション』引きこもりがあぶり出す、それぞれの問題「父と息子とはぐれた心 ~引きこもった僕の1年~」
ヨウヘイはそれまで家で家事をしたことなどまったくなかったという。母親が家事を一切させず、朝は大学の授業に合わせて起こすなど、かいがいしく世話を焼いていた。それだけに、はぐれ雲に入所した当初は、やる気もなくもたついた手つきで配膳をし、皿洗いもふてくされながら乱暴にやっていたが、1年後は、手際よくおかずの味付けまでしていた。
家事は「できないことができるようになった」という達成感を味わいやすい。毎日のことなので、今日は卵がうまく焼けなかったから、明日は味付けや火加減をこうしてみよう、と試行錯誤もできる。清掃の家事は爽やかな気分にもなれる。それに学校の勉強は受験以降は役に立たないものも多いが、家事は生きていく上で避けられない行為だ。ヨウヘイが、家事をもっと早くやっていたら、状況は違っていたのではないだろうかと思った。
はぐれ雲を夫婦で運営し、家事を担当する川又佳子は、ヨウヘイの問題点を指摘するが、手は出さず、ヨウヘイに最後までやらせていた。自分でやったほうがよっぽど早く、ストレスもたまらないとわかった上で、あえて「見守り、やらせる」ことを選ぶ。
一方の母親は、父親が高圧的な分、私が優しくしてあげないと、と思っているように見えた。しかし、「過保護」も子どもから考える機会を奪う行為だ。両親ともヨウヘイを「見守る」ことができず手を出してしまっているのだ。
「親がやってくれるだろう」という子どもと「その通りやってしまう」親
番組後半、ヨウヘイと両親が面談したときに、父親は「(大学の復学について)親に言われたからやったといわれるのは嫌、自己責任で決めてほしい」と話していた。それまで両親は、ヨウヘイに手取り足取り介入して、「考えるな」とでもいうような教育をしてきたのに、ここで急に「自分で考えろ」と突き放す。
一方でヨウヘイは、面談に来た親を前に顔を露骨にこわばらせていたが、いざ就活を行うことになると、親にLINEで「スーツほしい そろそろ就活しようかな」と送っていた。両親の「自己責任で決めてほしい」という言葉と、それを受けたヨウヘイの「スーツほしい」という自発的な言葉は、家族全員のそれぞれの成長を感じさせるようにも見える。だが、自分で自発的にスーツを買うのではなく、「スーツほしい」とさえ言えば親が用意してくれるだろう、といまだヨウヘイが信じて疑いもしていないようにも見えた。
また親も、その連絡を受けたらスーツをヨウヘイのもとに即座に送る。ここは「自分で買ったら」、せめて「金は出すから自分で選んでみたら」ではないだろうか。「親がやってくれるだろう」と自分から動こうとしない子どもと、進んで「やってしまう」親。結局、親子の関係は根本ではあまり変わっていないようにも見えた。
ヨウヘイの引きこもりはキタノ家の父、母、ヨウヘイの三者それぞれに課題を突き付けていると思う。
来週は「おなかも心もいっぱいに ~はっちゃんの幸せ食堂~」。500円食べ放題の食堂を一人で営む85歳のはっちゃん。そんなはっちゃんと新型コロナウイルスの戦いの日々。