『ザ・ノンフィクション』“家族結束”を説き、子どもの生き方を奪う父親「お父さんと13人の子ども 前編~7男6女 闘う大家族~」
淳一郎は、バブル時代で景気のよかった自分の若い頃と違い、今の若い人の置かれた状況は厳しいのだから家族の結束こそが大事だ、と語っていた。前半は同意するが、後半の「家族の結束こそが大事」については、どうだろうか。それは選択肢の一つでしかないだろう。何があるかわかならいこれからの時代は、「多様性」も選択肢にあるではないか。家と店から出た長男が、淳一郎の思いもつかない方法で家族を支えることもできるかもしれないのだ。
また淳一郎は長男の失踪後、店を継いでほしいという願いを次男と三男に託すが、なぜ娘たちではダメなのだろう。淳一郎の男女観は古いのではないか。店は、やる気と店への愛情がある人が継げばいいし、子どもが全員店を継ぎたくなければ他人が継いだっていいはずだ。コロナ禍で飲食店の置かれた状況が非常にシビアである以上、全員が消耗する前に店をたたむ、という選択肢も検討していいだろう。
澤井家の娘たちは番組内で見る限り父親と家族にとても従順に見えた。淳一郎自身はそうは思っていないのだろうが、番組を見る限り「永遠に自分の意見に従順であること」が淳一郎の理想の子ども像に私には思えて、げんなりとした。
次週のザ・ノンフィクションは今回の後編。コロナ禍が店を直撃するだけでなく、淳一郎自身がコロナで倒れてしまう。
ジョンマキのヤラセ告発に思うこと
ところで、『ザ・ノンフィクション』では、とても気になる問題が起きている。人気シリーズ「マキさんの老後」に出ていた名物コンビ「ジョンマキ」の二人が、番組内で過剰なやらせがあったと7月7日発売の「週刊女性」(主婦と生活社)で告発しているのだ。
私も同誌の告発記事を読んだが、記事からは12年続いた人気シリーズの多くが「演出」というレベルを超えた「嘘」の領域であったとある。この検証、実態の報告こそ『ザ・ノンフィクション』でやってほしいと願うが、残念ながらメディアという業界は、伝えることが仕事でありながら、他社の失敗は喜々として伝えるが、自社の失敗はその詳細までは伝えない傾向があるため、期待できないだろう。それはフジテレビに限らず、また、テレビに限らずウェブメディアにもその傾向はある。
「マキさんの老後」は大好きなシリーズだったのだが、二人が嫌々それに協力していたということが悲しい。制作スタッフと出演者が楽しく同意できるレベルなら、演出の範疇ともいえるが、出演者が嫌な気持ちになるような「嘘」は見たくない。