コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

「お母さんに告知しますか?」がんステージ4の母、要介護4の父――30代女性が抱えた両親の介護

2020/07/12 18:00
坂口鈴香(ライター)
muon-ashさんによる写真ACからの写真

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。前回に続き、30代で両親の介護に直面している中村万里江さん(仮名・35)の話をお届けしたい。

 中村さんの父博之さん(仮名)は2016年、64歳のときにクモ膜下出血で高次脳機能障害を発症し、母の晃子さん(仮名・当時64)と協力して介護をしていた。引きこもり経験のある兄(43)は、関西で生活保護を受けながら暮らしていたが、事故で軽い高次脳機能障害を負った。幸い、リハビリで一人暮らしができるくらいに回復してホッとしたのもつかの間、今度は晃子さんの体調が悪くなった。2019年頭のことだ。

(前回はこちら:要介護4の父と生活保護の兄……30代女性が背負った“家族”と“介護”の現実

母はステージ4のがんだった

 「食欲がない」と病院を受診し、検査した晃子さんにステージ4のがんが見つかった。そのうえ、腹膜播種(はしゅ)も起こしていたという。腹膜播種とは、がん細胞が臓器の壁を破って、腹膜に広がっている状態だ。

「今の時代には珍しく、母本人ではなく、私と伯母が先生から母の病状について説明を受けました。それで『お母さんに告知しますか?』と。伯母は言わない方がよいと言ったんですが、私は告知を選択し、翌日先生からあらためて母に告知してもらいました。先に自分が知らされるってイヤですね……」

 抗がん剤治療ができること、そして食べられない状態を改善するために、胃のバイパス手術をすることを提案された。

 晃子さんが手術のために入院するとなると、問題は博之さんの介護をどうするかだ。そこで、中村さんは博之さんをショートステイにお願いすることにした。それまでも、晃子さんが旅行するときなど、博之さんをショートステイに預けていたので気軽にお願いしたが、晃子さんの入院、手術にかかりっきりになったため、博之さんは施設へ“預けっぱなし”という状態になっていたという。

「父が大声で騒ぐ」施設スタッフからの連絡

「そのうち施設から、『父が大声で騒いで、ほかの利用者さんがびっくりしている』という電話が頻繁にかかってくるようになりました。『精神を安定させる薬を出しますか?』とも言われました。これは、出ていけということだろうか? と。ケアマネに相談すると、父が訴えていることをスタッフが解決できれば、落ち着くはずだというんです。つまり、父と施設スタッフの関わり方次第でもっとうまくやれるんじゃないか、ということ。しかし、施設としてもスタッフが足りていないので私に来てほしいと……。そんな経緯があり、父が安心して暮らせる場所を見つけたいと思うようになりました」

 中村さんは、博之さんの施設探しをはじめた。ホーム紹介会社から紹介された有料老人ホームをいくつか見学したが、気に入るところはなかった。

「そんなとき、知り合いがホーム紹介会社を立ち上げたと言っていたのを思い出して、相談してみたんです。すぐに会ってくれて、まずは父の経済状況を把握してそこから施設を絞りなさいと。それから具体的なホーム探しのポイントを教えてくれました」

 このアドバイスが奏功し、間もなく博之さんのホームが決まったという。

「入居者が“ぐでーん”としてないように見えたこと、それから入居者が企画、運営するクラブ活動があったことが決め手になりました。父は社交的な人でしたが、施設は父より年上の方ばかり。それがイヤでデイサービスに行くのも拒否していたくらいだったので、施設でほかの入居者さんたちとうまくやっていけるかが心配でした。でも、そうしたクラブ活動があるようなホームなら大丈夫じゃないかと思えたんです」

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