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『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』明日も生きていると言い切れるだろうか「孤独死の向こう側 ~27歳の遺品整理人~」

2020/06/22 20:54
石徹白未亜(ライター)

日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。6月21日は「孤独死の向こう側 ~27歳の遺品整理人~」というテーマで放送された。

『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)公式サイトより

あらすじ

 東京都板橋区の遺品整理会社「クリーンサービス」。社長の増田裕次と社員の小島美羽は「孤独死」の家に残された遺品の整理を行っており、仕事で使うトラックの片隅には菊の花束がある。増田のもとには1日5~6件の問い合わせがあるという。小島は父親の死をきっかけに遺品整理の仕事に関心を持ち、主が孤独死した部屋をミニチュアで再現し、孤独死の現実を世に伝えている。

 主が孤独死した部屋からは、故人の家族の写真や、故人が恋人と高級そうなレストランで食事をしている写真、精神系の疾患で通院していた記録や薬、利子の支払いばかりで終わらない借金の返済記録など、故人のさまざまな思い出や困難の中で生きた日々の痕跡が見つかる。

 番組の最後では、増田の父親が亡くなる。父親ともっと話ができればと悔やんだ増田は、家族へのメッセージを書き留めるための「わたしの自伝書」という名のエンディングノートを配布用に制作する。

明日も生きていると言えるだろうか

 増田の父親は東京で遺品整理の仕事を続ける息子について、よく頑張っている、と妻や周囲には話していたという。増田自身は、それを父親が亡くなった後、母親から聞かされる。「死ぬ前にそういうことを話せたらよかった、なかなか男同士だとうまくいかない」と増田は悔やんでいた。男同士でなくても、本人を労うようなことを、あらためて言うのは照れくさくてできない、という人は少なくないだろう。

 孤独死に限らず、死において残された側が抱える無念さとは「伝えたい人に、伝えたいことを伝えられないままになってしまう」点にあるように思う。故人がどういった思いを抱えていたのか知る機会も、永久に失うことになる。増田がエンディングノートを制作したように、万一に備え、思いを綴ったものを遺しておいたり、感謝を伝えておきたい人には日頃から気持ちを伝えておくことが、万人にいずれ絶対に訪れる「死」に対してできる数少ない備えだろう。

 しかし気になるのが「孤独死」という名称だ。同社のサイト上でも「『孤独死』という呼び方、それは本当にあっているだろうか?」との記事が掲載されている。このワードでは、「寂しく無念の中で死んだ」というイメージがついてしまうだろう。一人で暮らしていた女優の大原麗子さんが自宅で亡くなったとき、「孤独死」と報じられ、大原さんを冒とくしているように思えて腹立たしかった。ただ一人で亡くなっただけなのに、このような言われ方はたまらない。「看取られ死」「病院死」という言葉に比べて、「孤独死」という言葉の存在感は強い。「孤立死」にしようという動きも一部で進んでいるようだが、これでも何か寂しげだ。

 しかし「孤独死」には大きな問題がある。遺体が放置されることで、損傷しかねないのだ。番組内で増田や小島が訪ねた孤独死の現場においては、すでに「遺体そのもの」は警察が取り調べた後、遺族に引き渡されている。それでも、風呂場で亡くなった方の現場では、故人の黒ずんだ皮膚の一部が風呂マットにべったりと張り付いており、浴槽には髪の毛の塊のようなものがいくつか落ちていた。3カ月遺体が放置されていた現場では、遺体撤去後もむせかえるほどの死臭がするといい、小島が部屋に湧いた虫が産みつけた卵を駆除していた。今回の取材は冬場だったが、夏はどれほど過酷なのだろう。

 警察、大家、遺品整理事業者の手を煩わせて死にたいと思う人など、そうはいないはずだ。ご近所や離れて暮らす家族とマメなコミュニケーションが取れれば一番だが、それが難しいケースも少なくないだろう。現代の高齢社会では独居老人が増えている。それを受けて「見守りサービス」も増えているようだ。これは、自宅の中にドアの開閉を察知するセンサーなど、中の住人が動いているか(=生活しているか)を察知し、一定期間その動きがなければ家族などに通報がいくというサービスだ。ガスや電気やスマートフォンの利用状況で「生存」を確認するケースもあるし、郵便局やセキュリティ会社も見守りサービスを提供している。独居老人が減ることはないだろうから、こういったサービスは市場競争のもと、より洗練化していくはずだ。

 私自身高齢になり、一人家で暮らす場合はこういったサービスを利用し、亡くなったらなるべく早く見つけてもらえるようにしたい。それが人生最後の仕事になるのだろう。

 しかし何ら心身の健康に問題がない若い人とて、事故、事件、天災、急性疾患で突然亡くなることだってある。明日も絶対生きている、と言いきれる人など一人もいない。そう思うと、感謝を伝えておきたい人には日頃から気持ちを伝えておくしかないのだと、あらためて思う。

 次週のザ・ノンフィクションは『シングルマザーの大家族 ~パパが遺してくれたもの~』4男6女合わせて10人の子どもがいる續(つづき)一家。しかし、3年前に夫の浩一さんが、病気で突然42歳の若さで他界する。シングルマザーとなった夕美子の奮闘の日々。

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2020/06/22 20:54
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