四代目山口組組長射殺事件の“ヒットマン”からの手紙――元極妻が語る、「人殺し」ヤクザの心情
実は、この本は、最初はあまり読む気がありませんでした。だいたい懲役(受刑者)の手紙なんて、大半は食事の不満とか、観桜会(お花見)や運動会のお菓子がショボくなったこととかだし、そもそも何を言いたいのかよくわからないことも多いです。あとは事件の言い訳ですね。ちなみにどの手紙も、上手かどうかは別にして、字は罫に沿ってきちんと書かれています。「汚い字だと刑務官に突き返されるから」だそうですが、真偽は不明です。
でも、本を読み始めて、まず読みやすさに驚きました。山口組の事件や分裂騒動についても本音を淡々とつづっていて、とても興味深かったです。そして、著者や関係者からの差し入れに感謝しながらも、次からは無用と固辞しているのもさすがです。やはり獄中では尊敬されているのでしょう。敵の親分のタマ(生命)をきっちりトって(殺して)いますから、「ええ仕事をした人」といわれているのだと思います。
獄中ではみんなセコくなりますし、差し入れは1円でも多いほうが存在感を示せるので、断る人はなかなかいないですよ。
ヒットマンになるヤクザの心情
「射殺犯には、どこか命令に背けない中年男の哀愁を感じる。展望もないのに、なぜやったのか」
作家の正延哲士さんは、竹中組長射殺事件の公判を傍聴した際に、朝日新聞の取材にこう明かしています(1985年5月25日付)。長野さんも、この正延さんが傍聴された裁判の被告人の一人でした。正延さんは『最後の博徒――波谷守之の半生』(幻冬舎アウトロー文庫、現在は絶版)など、レジェンド的なヤクザや冤罪事件を取材していて、不良の間では有名な作家さんです。
中年男の哀愁――なかなか味わい深いお言葉です。以前も書かせていただいていますが、ヤクザが全員「人殺し」というわけではないです。大半は子どもの頃から居場所がなく、成り行きで行き着いた場所がヤクザ組織だっただけです。そこから組織のために懲役に行くか、死ぬか、あるいは成り上がれるかは運次第なんですね。
ヒットマンになりたくてヤクザになる人なんか、いません。たまたまヒットマンになるタイミングが回ってきちゃっただけなんですよ。そして指名されたら、もうノーとは言えないのです。長野さんは、書簡で「私は、この事件後、いろいろと考えてみても、何かあの当時起きたことが、諸々と1本の細い糸で結ばれているような気がしてならんのです」と回想されています。本当にいろんなことが重なって「事件」になったのでしょう。切なさしかありません。