コラム
老いゆく親と、どう向き合う?

認知症の夫に“熟年離婚”つきつけたワケ……「怒鳴られても言い返さない」貞淑な妻の反乱

2020/06/07 18:30
坂口鈴香(ライター)

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。

 新型コロナウイルスの感染を防ぐため、多くの介護施設では家族の面会をストップした。緊急事態宣言が解除され、面会が可能になった施設も増えてきているが、まだ全面的に解禁というわけにはいかないだろう。親が自分のことを忘れてしまうのではないか。認知症が悪化するのではないか……。不安に思いつつも、今は親の命の方が大切だと、なんとかこの時期を乗り切ろうとしている子どもは少なくない。

Photo by makitatsu from flickr

夫婦で認知症に、二人暮らしはもう無理

 井波千明さん(仮名・55)もそんな一人だ。井波さんの義父母・勇三さん(仮名・88)と茂子さん(仮名・86)は、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入っており、この2カ月ほど面会がかなわないでいる。

 サ高住に入居するまで、井波さんの義父母は、同じ県内だが車で2時間ほどかかる場所に住んでいた。夫の実家に行くのは年に2回くらい。飛行機を利用しないと行き来できない場所に住んでいる義兄が実家に帰る頻度とたいして変わらなかった。

 義父母が井波さんの家から近いサ高住に入居したのは、2年前のことだ。

 5年ほど前、勇三さんが認知症になり、その後茂子さんも物忘れが目立つようになった。茂子さんが初期の認知症と診断されてからも、訪問介護サービスを利用しながら二人暮らしを続けていたのだが、茂子さんの様子が急激におかしくなった。

「義父母が認知症になってからは、月2回くらい様子を見に行くようにしていたんですが、義母が2週間前とは激変していました。フラフラして歩けないし、表情もなくなっていた。すぐにかかりつけの病院に連れていったんですが、認知症が進行しているだけだろうと言われました。でもその後さらに状態が悪化して、翌月には立つこともできなくなったんです」

 そこで総合病院で検査してもらったところ、「硬膜下血腫」という診断が下りた。頭蓋骨の内側にある硬膜と脳の間に出血が起こり、そこに血液がたまる病気で、血腫が脳を強く圧迫してさまざまな症状が引き起こされる。幸い、茂子さんは手術を受けて、症状はかなり改善した。

「でもこれをきっかけに、義父母が二人で暮らすのはもう無理だろうと、夫と義兄の意見が一致しました。それで、私たちの家の近くで施設を探すことにしたんです」

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