なぜ「ポスト福山雅治」は現れないのか? 湯山玲子が語る「歌う俳優」の進化論
——菅田将暉さんの「まちがいさがし」の歌詞は、共感性が高いと言われていて、作詞作曲を手がけた米津玄師さんの詞はネット上でよく考察されていたりもします。
湯山 「まちがいさがしの間違いの方に生まれてきたような気でいたけど」って、確かにパンチライン効いてますね。マッチョではなく、男の心の複雑さや弱さをセクシーに書ける人がもっと出てきてもいい。そして、そういう作詞の歌を俳優が演じるように歌ったら、最高に盛り上がりそう。
——そういう意味では、菅田将暉さんの歌手活動はかなり完成形に近いのかもしれませんね。今ある「男心」を精一杯表現できているというか。
湯山 女性から見られて「弱い」と思われることを、本当に男性は無意識に遠ざけるところがあるでしょ。性的な部分で女性にイニシアチブを取られることも、サービスプレイ以外は大嫌い。舞台『娼年』を見にいったとき、演出はポツドールの三浦大輔だし、松坂桃李も体当たり演技だしで、もう客席は女性わんさかでスタンディングオベーションしていたんですよ。でも、私の隣に座っていた招待客らしいおっさんは、何かというと舌打ちしていた。女が男を買う、ストーリーが気にくわないんだろうね。あからさまに不快を示してて。
——同作の映画公開時も、濡れ場の評判を聞いて観にいったら「思ってたのと違う!」となった男性も少なくなかったとか。
湯山 そりゃ「桃李演じる主人公と違って、自分は絶対に女に買われない存在だ」ということに無意識に腹が立つんでしょうねぇ(笑)。だから、なかなか男のaikoが出てこれないんだよね。でも、弱いことは“悪”ではぜんぜんなくて、それを発信することで救われる人はいると思うんだよね。
——若い世代になると、もっと柔軟にものごとを考えるようになっているんじゃないかという気はします。
湯山 そうなんだよね。例えば、俳優が歌ってもいいし、踊ってもいいし、インスタやってもいい。SNSのバッシング環境は過酷で、恥をかいて傷つくことは怖いけど、その恐怖を織込み済みで、なおかつ表現しようとする強さ、いい意味の鈍感さが若い世代にはありますよね。炎上も自分への一票にできるような、てらいのなさは羨ましいですよ。
——「てらいがない」という印象は確かに、今歌手活動をする若い俳優たちに当てはまる気がします。
湯山 菅田くんにせよ、真剣佑にせよ、最近の若手俳優たちは、てらいもなく自然に歌っていると思うんだけど、それはやっぱり若い世代の価値観がいい方向に変化しているってことを示しているんだと思います。そういういいものを持ってる俳優たちに、作家が何を歌わせるか……アップデートされた「男心」を描ける作家が出てきたらいいなと思いますね。
湯山玲子(ゆやま・れいこ)
映画、音楽、食、ファッション、クラブ・カルチャーなど文化全般を横断しながら執筆を展開。『ごごナマ』(NHK)をはじめ、テレビ番組にコメンテーターとしても出演している。著書に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『女装する女』(新潮新書)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)など多数ある。