カルチャー
歌う俳優が台頭するのはナゼか(前編)

菅田将暉、中村倫也、真剣佑……「歌う俳優」が台頭するのはナゼか? 湯山玲子が語る「俳優と歌」の関係性

2020/06/04 19:00
サイゾーウーマン編集部

 石原裕次郎、小林旭、渡哲也、60年代の映画黄金時代に活躍したスター俳優たちの多くは歌手活動を行なっていた。時は流れ、吉田栄作、織田裕二、江口洋介、反町隆史ら90年代のトレンディ俳優のブームを最後に、00年代に入ると俳優の歌手活動はすっかり廃れてしまった。 だが、2020年代を迎えたいま、菅田将暉、ディーンフジオカ、新田真剣佑といった若手俳優たちが彗星のように現れ、俳優の歌手活動路線をふたたびアップデートしはじめているようだ。

 この背景にはどのような事情があるのだろうか、音楽とジェンダー論に明るい著述家の湯山玲子さんに分析してもらった。

——90年代のトレンディ俳優以降、あまり目立った動きがなかった男性俳優の歌手活動が、再び活発化しているように思います。

湯山玲子(以下、湯山) そもそも俳優の音楽活動って、ふたつのタイプに分かれるんですよ。仕事と切り分けて自分の聖域(サンクチュアリ)としてやるタイプと、俳優仕事のプロモーションの一環として歌う昔ながらのタイプ。前者はトレンディ俳優以降では、オダギリジョーや浅野(忠信)くんが音楽活動をしているけど、本当に好きでやっている感じで、タイアップでドラマの主題歌みたいなことはやらない。で、最近の菅田将暉やディーン・フジオカ、三浦春馬なんかは、ちょうどその中間くらいのバランスで、うまくやっているように見える。

――確かに、菅田将暉さんが昨年の紅白歌合戦で歌った『まちがいさがし』は、事務所の先輩である松坂桃李さん主演ドラマ『パーフェクトワールド』(フジテレビ系)の主題歌でしたが、菅田さん自身はドラマには出ていませんでした。

湯山 演技がうまくて、それで歌もうまいんだから、なんだかすごい時代になってきたよね。そもそも、最近の俳優たちって急激にレベルが上がっていて、実力があることが当たり前の世界になりつつある。歌えたり踊れたりする俳優も徐々に増えてきているわけで、これ、ジャニーズが影響していることに間違いはない。ミュージカルのレベルも上がっていて、『キンキーブーツ』のドラアグクウィーンの女装で歌い踊る三浦春馬はすごかった。ちなみに、彼は英語も中国語も得意としている。

ーー山崎育三郎さんや、井上芳雄さんなど、ミュージカル界からもスター俳優が出てきています。やはり、演劇の舞台は俳優にとって重要だということでしょうか?

湯山 舞台経験が俳優を鍛えることは紛れもない事実で、昔はテレビや映画の出演よりも下にみられていた舞台の現場に、積極的に人気の若手を入れて成長させるという戦略がこの10年の当たり前になってきた。その先駆けがジャニーズ事務所だったんだけど、1989年に木村拓哉を蜷川(幸雄)さんの『盲導犬』って舞台に出して、今後は舞台で実力をつけていかないと戦っていけないというふうに、長い目で見て育成するようになったことは大きかったんじゃないかな。

——なるほど。ちなみにいま、湯山さんが「歌える」俳優で気になっている人はいますか?

湯山 ほら、去年の紅白で『アラジン』の劇中歌を歌ってたあの……そうだ、中村倫也! タクシーの車中CM映像で可愛いコがいるな、と思って、ググったら、それが彼。歌もうまいし、チンピラ役からお坊ちゃま役まで芸域が広い。そう、いまの世代の役者は急激にハリウッド化していますよね。大ヒットしたアメリカのミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』も、劇中で歌ってるのは俳優なわけで、持っている技術が高い。アクション映画もミュージカル映画もできるヒュー・ジャックマンとかもいるし。アン・ハサウェイみたいなお嬢ちゃん俳優だって、『レ・ミゼラブル』であれだけ歌えて驚いたわけです。日本の芸能界も、その世界に近づきつつあるんじゃないかな。

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