コラム
高橋ユキ【悪女の履歴書】

風俗スカウトマンで「有名大学の真面目」な彼との同棲――人気ヘルス嬢に芽生えた殺意【世田谷・学習院大学生刺殺事件】

2020/05/30 17:00
高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

 夜の街の福岡さんを知る者は皆、彼の仕事ぶりを褒めた。

「いいヤツでしたよ。仲間もみんな彼が好きでした。仕事にも熱いヤツでした。社員と同じくらい店のことを親身になって考えてくれていた」

 彼がアルバイトしていたキャバクラ店店長は振り返る。渋谷の路上で福岡さんにスカウトされて入店したキャバクラ嬢も続ける。

「まずカッコ良かった。彼だから話を聞いてみようという気になりましたね。最初に出勤する日、渋谷まで迎えにきてくれた。初日はラストの深夜2時まで待ってくれました。『どうだった?』と親身になってくれた。2日目も迎えにきてくれて、ラストまで。『イヤなお客さんいなかった? イヤなお客がいたら、オレにいつでも言ってくれ』と、とても親切でした」

 トップスカウトマンとして月に30万円以上を稼いでいた福岡さん。一方「クミ」として性感ヘルスで働き始めた典子も、週に5、6日真面目に出勤し、客のマニアックな要求にも応えることから、すぐにナンバー3にまで駆け上がる。美容師の資格を取得していた典子は「お金を貯めて美容院を開き、彼と結婚する」という夢を持ち、多い月で250万円は稼いだ。上京直後に勤めていた府中の店をすぐに辞め、新宿に移ったのも「短期間でお金を稼ぎたい」という目標があったからだ。そんな典子の目には、福岡さんは「有名大学の学生でしっかりしている」真面目な男性そのものに見えていた。結婚相手には彼しかいない、そう思っていた。

 しかし福岡さんには、スカウトの顔とも、大学生の顔とも違う、別の顔があった。そして二人の関係も、ねじれてゆく。

――後編は明日31日公開

高橋ユキ(傍聴人・フリーライター)

傍聴人・フリーライター。2005年に傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。著作に『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)など。好きな食べ物は氷。

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X:@tk84yuki

最終更新:2024/01/16 14:26
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