ピンクレディーグッズを大量に盗んだ少年は、父親にボコボコにされた……ベテラン保安員が振り返る「昭和の万引き犯」
この頃の主な警戒対象は、いわゆる不良少年たちでした。なにしろ中学1年生くらいの子が、パンチパーマをかけて、たばこやシンナーを吸いながら街を練り歩いていた時代です。少年非行が社会問題化しており、シンナーを吸いながら万引きする少年少女など、珍しくもない時代でした。暴走族風のカップルが、ジュースやお菓子、もしくは酒とおつまみといった組み合わせ一式を万引きするのが犯行の定番で、夏休みになるとバーベキューセットを花火付きで持ち去る犯行が横行します。野球チームを作りたかったと、バットやボールのほか、仲間の人数に合わせた数のグローブを盗み出した暴走族グループに遭遇した時には、開いた口が塞がらない思いがしたものです。
当時は、インベーダーゲームが大流行しており、屋上のゲームコーナーで「ガット」(硬貨投入口にテニスラケットで使用するガットや針金を差し込んで不正にクレジットを増やす犯罪行為)と呼ばれる行為で不正入金を繰り返す不良高校生グループを、学校の先生と一緒に摘発したこともありました。盗んだジュースやお菓子、それにシンナーを片手に、ゲームコーナーで屯するところを摘発したのです。その時には、捕まった被疑者たちの仲間が事務所まで身柄を取り返しにきて、大騒ぎになりました。通報を受けて駆け付けた体格の良いプロレスラーのような体をした警察官が、全員相手してやるから道場に来いと、事務所で悪態をつく少年たちをドラマチックに挑発してみせた場面が、昨日のことのように思い出されます。不良少年などには、みんなが人情深く、熱く接していた時代だったのです。
昨今の現場は、金を出し惜しむ守銭奴のような高齢常習者と、我が国の商店をあざ笑うかのように大量盗難を繰り返すベトナム人窃盗団に苦しめられています。コロナ騒動下の現在、高齢常習者は相変わらず目に余る状況ですが、多くの不良ベトナム人は帰国を余儀なくされたようで、その姿を見ることは急減しました。その分と言っていいのかわかりませんが、自粛により稼げなくなった中高年層の方々が万引きに手を染めてしまう事案が目立ち始め、暇を持て余した小中学生によるゲーム感覚の犯行も増加傾向にあるようです。
ここのところ頭にちらついていた引退の二文字が、最近は浮かばなくなってきました。初々しく犯行に及ぶ初犯の方を検挙するたび、自分の使命感のようなものが燃えてしまうのです。
「これを最後にしましょうね」
現場で縁のあった被疑者のみなさんに伝える言葉は、この仕事を始めてから変わっていません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)