『ザ・ノンフィクション』人が消えたナイトクラブの苦悩「銀座の夜は いま・・・菜々江ママの天国と地獄」
2019年の年末、「クラブNanae」を訪ねた客は菜々江のことを「みんなに夢を売って、女の子にも夢を売って、お客さんにも夢を売って」と褒めていた。座るだけで4万円かかる「夢」を成立させ、月商1億をはじき出していたのは菜々江の不断の努力と才覚によるものだろう。
しかしコロナ禍のもと、直近3カ月の売り上げ見込みは前年比8割減と厳しい状況だ。5月31日まで緊急事態宣言が延長される中、つらく厳しい日々はまだまだ続くだろう。番組の最後、休業中の菜々江は、オンラインで銀座のママと飲む、といったテーマのネット配信をしていた。菜々江に限らず店を開けられないナイトワークの人たちが「オンラインキャバクラ」「オンラインクラブ」を始めたとは見聞きするが、こういった取り組みで得られる金銭的な成果はいかほどなのだろう。
以前、演出家の松崎文也氏を取材した際、舞台と映画やドラマの違いについて、人は直接目の前で頑張っている人をなかなか嫌いになれないが、レンズを介して見るときはひどく冷静になってしまう(※)と聞いた。私自身、演劇を生で見たときはそれぞれの役者の良さを感じたが、同じ演目をDVDで見た際、この人は踊りがいまいち、この人は歌がヘタ、と見る目が一気にシビアになって自分でも驚いた。
「画面越しの人を夢中にさせる」のは、とんでもなく難しい。ナイトワーカーの人たちが、それまで目の前の客に提供していたのは、高額な「夢」だ。銀座というステータスや憧れが込みで成立していた夢の世界が、自宅で画面越しになれば、人は自ずと冷静になり、理性が介入しやすくなる。正直、オンラインのナイトワークはかなり厳しいのではないだろうか。
しかし人間はどんな時代でも適応し変化を遂げてきた。私の悲観的な予測を覆すような画期的で、夢のある痛快なオンラインナイトワークの誕生を願う。
次週のザ・ノンフィクションは『花子と先生の18年 ~人生を変えた犬~ 前編』。野良猫や捨て犬など飼い主のいない動物の治療を積極的に行う獣医師の太田快作。そのきっかけとなったのが18年前に青森の保健所から引き取った犬、花子との出会いだった。先生と花子の日々を見つめる――と、間違いなく号泣回が来るので箱ティッシュを用意しておきたい。