カルチャー
[官能小説レビュー]

陵辱モノで女の“気持ちよさ”を描いた官能サスペンス『穢したい彼女』

2020/05/04 21:00
いしいのりえ
『穢したい彼女』(ジーウォーク紅文庫)

 官能小説にはいくつかの予定調和が存在し、その中でどう小説を面白くするかが作者の技量にかかっている。

 例えば官能小説のジャンルとして無数に存在する「人妻」「SM」モノなどが最たる例だ。昔から数えきれないほど発表され続けているが、いまだに毎月新刊が発行されている。料理にたとえると肉じゃがのようなもので、ありふれているからこそ家庭や店によって調理方法や味が異なる。「この店はどんな味なんだろう?」と興味を持つ人がいるように、人妻モノに関心を持つ人が一定数存在するのである。

 今回ご紹介する深志美由紀の『穢したい彼女』(ジーウォーク紅文庫)は、そんな予定調和のひとつである陵辱モノにミステリー要素を加えた作品である。

 主人公の健人は冴えない元オタクで、いわゆる大学デビューの社会人である。モテ本を買い漁り、ダイエットや筋トレに励んで清潔感を出した。その甲斐あって、女性に毛嫌いされることはなくなったものの、内気な性格は治らない。

 彼が密かに心を寄せているのが、4歳年下の同僚・安奈だ。清楚で明るい彼女に惹かれるきっかけになったのが、出張先での出来事だ。健人の待ち受け画面に表示された魔法少女のアニメに安奈が興味を示したことで、時々アニメの感想を送り合ったりする仲に発展した。アニメの趣味を受け入れてくれた安奈は、健人にとって「心の女神」なのである。

 ある日、安奈からアニメ映画に誘われた健人だが、同僚からとある安奈のうわさを聞く。以前交際していた恋人が亡くなったことから、二度と男と付き合うつもりはないというのだ。そんなうわさを聞いて、ますます健人は安奈の健気さに惚れ、彼女の笑顔を守ろうと決心する。

 しかし、とある日の出来事がきっかけとなり、健人の日常に変化が訪れる。

 いつものようにジムのプールで泳ぎ、ジャグジーで寛いでいると、見知らぬ女性から声をかけられた。先週から同じジムに通い始めたというその女性は梨子といい、ノーメイクでもわかるほどの整った顔立ちをしている。翌週、ジムで水泳の本を貸す約束を交わし、食事をしながら会話をした後、健人は部屋へと誘われる。

 生まれて初めて恋人ができたかもしれないと浮かれている健人の元に、梨子からメールが届く。何気なく添付されたURLをタップした健人は、現れた画面に絶句した。そこには、目隠しをされた裸の女性が複数の男たちに犯されている写真が映し出されたのだ――。

 怪しいサイトをクリックしたことから、健人の生活は一転する。そして安奈と梨子の秘密も暴かれることとなる。

 目を覆いたくなるような陵辱シーンが続くものの、サスペンス要素が盛り込まれていることで肩の力が抜け、自然と物語の続きを追いたくなる。清楚な安奈と明るい梨子の対比も「官能あるある」だが、彼女たちの裏の顔が魅力的で斬新だ。

 陵辱モノは女性にとってはつらいシーンが多いものだが、女流作家の目線で書かれている分、女としての「気持ちよさ」も理解できる稀有な作品である。
(いしいのりえ)

最終更新:2020/05/04 21:00
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