ホームレスの女装万引き犯は、鼻の頭が割れていた……「これで人生台無しよ」Gメンに漏らした過去
勤務終盤、退屈からくる眠気と闘いながら店の出入口を眺めていると、一見してホームレスに見える男性が、黄色いミニスカートと水色のハイヒールをはいた女装姿で店に入ってくるのが見えました。おそらくは60歳前後でしょうか。羽織っているブルーのスカジャンをはじめ、身につけているもの全てが薄汚れていますが、白いストッキングが筋肉質で細い脚を際立たせています。
(なにを買いに来たのかしら? どう見ても、お金は持っていなさそうだけど……)
そっと近づいて後を追うと、なにかで胸まで膨らませていた男性は、迷うことなく化粧品売場に直行していきました。恐る恐る表情を窺えば、つけまつげを接着剤でつけているのか、目の周りがバリバリになっていて、終始目をパチクリさせています。
(この人、どんな人なのかしら……)
するとまもなく、つけまつげセットとつけ爪セットを続けて手にした男性は、それを重ね合わせると、その場で躊躇することなく上着のポケットに隠してしまいました。続けて、いくつかの口紅とマニキュアを手に取って、それらもポケットに隠してしまいます。周囲を警戒することなく、平気な顔で犯行に及んでいるところを見れば、ずいぶんと手慣れているように見えました。
(もう間違いないわね。暴れる感じはしないけど、態度を豹変させるかもしれないから気をつけないと……)
気付かれぬよう距離を置いて後を追うと、次に焼肉弁当とカップ酒を手にした男性は、それをおなかの前で抱えたまま外に出て行ってしまいました。地上出口につながるエスカレーターに乗り込んだ男性が、上階の床板を越えたところで声をかけます。
「お店の者です。そのお弁当とお酒、持っていったらダメですよ」
「あら、いやだあ。あんた、見てたの? お金ないし、これ返すから、許してくれない?」
まるで慌てることなく、意外なほど人懐っこい笑顔で応じた男性は、賞状を渡す時に似た動きで焼肉弁当とカップ酒を差し出しました。ガサガサの唇に塗られた真赤な口紅と、顔の中で浮いている水色のアイシャドウが、この男性の不気味さを際立たせています。
「それだけじゃないでしょう。全部出してもらわないといけないから、事務所まで一緒に来てもらえます?」
「ここで勘弁してよ。お金は、一銭もないし、全部返すから。ね、お願い」
「ダメですよ。さあ、行きましょう」