『ザ・ノンフィクション』鈍感さの弱みと強み「52歳でクビになりました。~クズ芸人の生きる道~」
しかし、小堀はなぜここまで「鈍感力」が強いのか。喰が小堀に鋭い指摘をしていた。
「(小堀は芸に)興味なんか持ってないじゃない、誰にも、俺にも興味を持ってないと思うよ。興味を持って人と接しろと言ってるの」
小堀の突き抜けた鈍感力は、あらゆることへの興味のなさからきているのだろう。ストレスは少なそうだし、ちょっとうらやましいほどの鈍感力だが、一方で芸人という職業において、鈍感力が強すぎるというのは問題ではないか。
小堀は女装してゲイバーで働いた際、帰る客に対し「バイビー」と言い、古いとツッコまれていた。ワハハ本舗のネタ見せ会をドタキャンする際、LINEに「歯が痛くて動けない」の言い訳とともに、土下座する自分の写真をウケ狙いで添付して、喰の逆鱗に触れてしまった。このあたりの「読めなさ」も、相手がどう思うかという人への興味の薄さゆえなのだろう。
ただ、小堀が喰の教え通りに、芸や人や世の中に興味を持っていくというのは、より感受性を持ち敏感に繊細になっていくということでもある。今から繊細になったところで、現状を知って落ち込んでしまうだけな気もする。「鈍感さ」は小堀の弱点でもあるが、小堀を守ってもいる。
ギャラ飲みで生きていける鈍感さ
しかし「ギャラ飲み」とは不思議な世界だ。番組内で小堀を呼んでギャラ飲みをしていたのは、小堀より年下の青年実業家だった。おしゃべりがしたかったらスナックやバー、キャバクラなどさまざまな選択肢があるのに、なぜ「小堀とギャラ飲み」になったのだろうか。その接点も動機も気になるところだ。
昨年、カラテカ・入江慎也の口利きによって反社会勢力のお座敷に呼ばれた、雨上がり決死隊・宮迫博之、ロンドンブーツ1号2号・田村亮が窮地に立たされた。彼らの所属事務所・吉本興業や他事務所を巻き込む大騒動になったが、あの件は呼ぶ側にしてみれば“あの”宮迫や亮を呼べるところに価値があったはずだ。
そう思うと、芸人として知名度がない小堀がギャラ飲みを成立させているのは偉業だ。番組内では、ギャラ飲みは芸人の本業ではない、といった調子でネガティブ気味に伝えていたが、人の目を気にしない小堀にとって、芸人の本分などどうでもいいのだろう。
喰は小堀に興味を持つことの大切さを説いたが、52歳の今からないものを培おうとするよりも、持ち前の人並みはずれた鈍感力を武器にサバイブしていったほうがいいのではないかとも思えた。