『ザ・ノンフィクション』現実から逃げる中年と決意するハタチ「余命3年の社長と刑務所を出た男 後編~塀の外の挫折と旅立ち~」
大山が「人間関係が面倒」なのは事実だと思うが、「苦手」という気持ちも入っているのではないだろうか。「面倒だ」と物事を自分から、わかったような顔で、さも自分の意志で切り捨てるとき、その裏には「それが苦手だ」という思いや、苦手だと思うに至った失敗や挫折の経験があるように思う。
「面倒」と「苦手」の境界線はあいまいだ。苦手意識にさいなまれ自信や自尊心を失うのは良くない。かといって面倒だと切り捨て投げ出していけば逃げ癖がつく。この塩梅は本当に難しい。
彼女の妊娠で告げられる「子ども時代の終わり」~20歳の翔太の場合~
今回のもう一人の主人公、少年院から出所した20歳の翔太は、不平不満ばかりの大山に比べ爽やかだ。少年院生活で趣味になった読書の影響もあるのか、自分の状況を冷静に見つめ、言葉にすることができ、番組の最後では「更生はするものじゃなくさせてもらうもの」とまで言う。深く考え続けなければたどり着けない言葉だろう。
さらに翔太は、友達と再会の機会をつくりめかしこんで会いに行ったりと、人とつながっていこうとする意欲があり、さらには彼女も作ったりと行動力もある。いわゆる「地方のヤンキー」風情の翔太だが、コミュ力、行動力は高い。所属欲求を大切にする翔太は大山のような「人間関係なんて面倒くさい(≒苦手だ)」という感覚はあまりないのだろう。
そんな翔太は一方で、慎重さがすっぽ抜けているというか、短絡的なところも同時に持っている。少年院に入ることになったきっかけも、「会社の車を盗む」という、向こう見ずな犯罪だ。出所後も、彼女が妊娠したとき、翔太は番組内で明らかに苛立っていた。全国の視聴者が「妊娠に困るくらいなら避妊しろ」とツッコんだと思う(避妊の失敗なのかもしれないが)。
20歳で父親になると言われ、本心から喜べる男性はそう多くはないだろう。20歳は成人したとは言え、まだまだ自分の成長や未来のことだけ考えていたい年頃であり、その意味でまだ子どもだ。しかし、翔太は彼女の連れ子も含め子ども二人の「親」にならねばならない。迷った末に居心地のよかった北洋建設を退社し、彼女の待つ青森に戻る翔太は「不安はありますね、頑張るしかないですね」と話す。
小澤が関わる受刑者支援のプロジェクトの名称は「職親プロジェクト」だが、企業が親になり、働くことを通じて元受刑者たちを大人へと成長させていく、という思いや願いを感じる。翔太も北洋建設という「親」のもと、大人への日々を、もっとゆっくり歩んでいくのがよかったのだろう。しかしこうなった以上は仕方ない。
番組内では、北洋建設が開催する毎年恒例の新年会の模様も放送された。そこには元社員の姿もあった。「卒業生」の更生した姿は、小澤をはじめ北洋建設社員の喜びであり、そして、古巣にカタギの元気な姿を見せることができる「卒業生」にとっても誇りであるはずだ。それをモチベーションに、翔太もこれから果てしなく続くように見える生活から逃げないでほしいと願う。
次週の『ザ・ノンフィクション』は「52歳でクビになりました。~クズ芸人の生きる道~」ワハハ本舗所属の芸人・小堀敏夫52歳。芸歴30年。芸人として何一つ努力せず、毎日パチスロばかり、ギャラ飲みで生計を立てている。やる気のない小堀をワハハ本舗、主催の喰始(たべ・はじめ)は長年見逃してきたのだが……。先週、今週、来週と『ザ・ノンフィクション』十八番の「ダメ中年」シリーズが続く。