コラム
老いてゆく親と、どう向き合う?

「おじいちゃんが救急搬送された」心不全の父と脳梗塞の母ーーひとり娘が背負った介護の現実

2020/04/12 19:00
坂口鈴香(ライター)
acworksさんによる写真ACからの写真

“「ヨロヨロ」と生き、「ドタリ」と倒れ、誰かの世話になって生き続ける”
――『百まで生きる覚悟』春日キスヨ(光文社)

 そんな「ヨロヨロ・ドタリ」期を迎えた老親と、家族はどう向き合っていくのか考えるシリーズ。シングルマザーの春木直美さん(仮名・53)は、娘のひとみさん(仮名・27)が幼いころから両親に預け、仕事を続けてきた。ひとみさんは結婚して家を出ていたが、離婚し、幼い娘と再び実家で暮らしていたのだが、母の八重子さん(仮名)が脳梗塞の発作を起こす。幸い、後遺症の残らなかったものの、退院当日に八重子さんは病院のベッドから転倒してしまう。

(前回はこちら:パーフェクトだった母が脳梗塞にーーシングルマザーが直面した、両親の壮絶な介護)

退院する母を迎えるには最悪の環境

「すぐに検査してもらい、脳には異常ありませんでした。しかし、それ以来母は歩くことへの恐怖心を持ってしまったんです」

 そのうえ、八重子さんが戻る自宅の環境は大きく変わっていた。それまでの住まいは段差が多く、脳梗塞を患った八重子さんには生活しづらいだろうと考え、直美さん家族はバリアフリーのマンションに引っ越していたのだ。

「しかも、引っ越したばかりでまだ荷物が山積みの室内を見に来たケアマネジャーと福祉用具レンタルの業者が、『これでは介護ベッドを入れられない』と、荷物の入った段ボールを次々とタンスの上に積み上げ、クローゼットに和ダンスを無理やり入れてしまったんです。『早く家に帰って、ひ孫と遊びたい』と退院を楽しみにしていた母を迎えるには最悪の環境になっていたんです。病室よりも悪かった。そもそもこのケアマネも、母が入院していた病院の紹介。退院してくれないかと打診されるやいなや、『すぐ自宅を見に行きたいから、それまでに引っ越してください』と言ったんです。そのころ私は仕事が忙しかったうえ、東京に借りていた部屋も引き上げて実家に戻ることにしていたので、孫の面倒もみながら二つの家の引っ越しもしないといけないという状況だったのに、そんな事情などお構いなし。病院とつながっているケアマネとレンタル業者なので、病院の都合を優先したんでしょう」と、直美さんは憤る。

 そのころ、父親の謙作さん(仮名)にも異変があらわれていた。

「母の入院中、父の歩行がすり足になり、夜中によく転ぶようになりました。足が象のようにむくんでいたこともありました。それで病院に行ったところ、不整脈がわかったんです」

 日中は謙作さんも元気だったので引っ越しはできたものの、八重子さんが退院して半月ほどたった朝、謙作さんは心不全の発作を起こす。

「呼吸が明らかにおかしいんです。その日私にはどうしても休めない仕事があったので、娘に病院に連れて行ってもらいました」

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