ジャニーズ・ラウール×ディオールは「メイク文化の解放」か? 「男でも美しくあれ」の拘束か? メディア論教授が解説
【前編の記事はコチラ:ジャニーズ・ラウールとディオールコラボの意義――化粧品業界を席巻する「男性モデル」と、韓国コスメの広告事情】
「パルファン・クリスチャン・ディオール」とSnowMan・ラウールのコラボレーションが話題となった。2月下旬、ファッションウェブサイト「ELLE ONLINE」上で公開された動画は、ラウールが自らの唇にリップを塗ってみせるという演出も相まって、すぐさまSNS上で拡散され、先行販売されたラウールの使用色のリップとグロスは、即完売だったという。
さかのぼること24年前、くしくもジャニーズ事務所の先輩にもあたる木村拓哉の口紅の広告が、当時大きな反響を呼んだ。カネボウ「Super Lip」のイメージモデルを務めた木村は、頬に赤いリップを走らせた姿でどこか挑発的な視線を送り、「スーパーリップで攻めてこい。」というキャッチコピーとともに強烈な印象を残した。この広告で木村は、キャッチコピーからもわかる通り「リップをつけた女性に攻められる相手」として、つまり、欲望の受け手という役割を担っていた。一方、今回のコラボ動画の中で、ラウールは真っ白い衣装を身にまとい、リップを自らの唇に引いて踊った。男性でありながら、リップをつける主体として立ってみせたのだ。
双方を比較すると、同じ「リップの広告の男性モデル」ながら、そのイメージは大きく異なっていることがわかる。では今の時代、男性タレントが化粧品の広告に登場し、また自らの唇をリップで彩る行為には、どんな意味があるのだろうか。これについて、メディア文化論を専門とする大妻女子大学の田中東子教授は、まず「男性がメイクをすること自体は、特に目新しいことではない」と話す。
「男性のメイクは、70~80年代に流行したグラム・ロック、ニュー・ウェイヴといったイギリスの音楽カルチャーの中でも見られた現象です。それは日本にも派生し、坂本龍一をはじめとするアーティストたちがメイクを施したり、少女マンガに美しく化粧した男性たちが登場したりしました」(田中教授)
その後、アーティストのメイクはヴィジュアル系バンドカルチャーに受け継がれ、男性のメイク文化は残り続けることになる。その上で、田中教授は、今回のラウールとディオールのコラボの目新しさは「男性のメイクを広告したこと」だと説明する。
「ディオールとのコラボ広告で、ラウールさんは化粧する主体として表象されています。また、ガールズコレクションのステージで彼が一般人男性に向けてリップをすすめたこと、それがこの広告の新しさです」
2月29日に開催された「東京ガールズコレクション」に出演したラウールはディオールのリップを施したてランウェイを歩き、「メンズの方にも使っていただきたいです」と話している。これまで、美容のカルチャーは「女性のもの」とされてきた。そこにディオールとラウールのコラボ広告は、男性にリップを引く権利を公然と与えたのだ。男性にとってタブー視されていた「日常的にメイクする自由」という扉を開いたのである。またこれは、分断されてきた「男性の消費」と「女性の消費」の境界をなくそうという試みとも解釈できる。