「ゆめこどもクリニック伊賀」院長・加納友環先生インタビュー【後編】

反ワクチン、脱ステロイド――「自然派ママ」はなぜ生まれる? 小児科医が「孤育て」という背景を語る

2020/03/08 16:00
「ゆめこどもクリニック伊賀」院長・加納友環先生

自然派ママも「子どものため」という気持ち

 そもそも自然派ママが生まれる背景には、「防腐剤や添加物など、人工的なものに対する小さな不安感」が挙げられるようだ。逆に「ナチュラル志向のライフスタイル」は、体に優しいイメージがあり、安心感が得られるため、「それが『自然は善』『人工物は悪』という構図を生み出すのではないでしょうか」とのこと。

 こうした一般的な構図が、特に育児中の母親の間でより強化されていくのは、核家族化、地域との関わりが希薄になっているという社会環境の中で、「孤育て」に陥っている人が多いからではないかという。

「ほかの人の意見を聞く機会がないため、考えが一方向にいきやすいのです。多くの人と接していれば、例えば『子どもには無添加のものを食べさせている』という意見、一方で『添加物は気にしない』という意見など、いろいろな考えに触れることができるので、極端すぎる育児に走ることはないと思うのですが、『孤育て』でネット情報ばかりを見ていると、『添加物がいかに恐ろしいか』という過激な記事ばかりが目につき、それを信じ切ってしまうということはあるように思います」

 また、医療は日々更新されていくため、「育児の世代間ギャップ」が生じ、上の世代が下の世代にアドバイスをしにくいという現状も。これが「孤育て」につながる面もあるという。

「予防接種の種類にしても、昔とは違いますからね。『今の時代はこうだから』と言われると、上の世代の方も、なかなか助言することは難しいのかなと感じます」


 一方で、そうした「孤育て」中に、同じく育児中のママ友から「自然派育児」を勧められると、信用してしまうというケースもあるようだ。自然派を信じている人は、「悪意なく」人に勧めるため、「それを聞いた人も情報を信用してしまう。そんな傾向があるように思う」という。

「医者のアドバイスより、ママ友の言葉を信じてしまうのです。なぜなら、医者よりママ友とのほうが『信頼関係』があるから。もちろん、長年通っているかかりつけ医で、すでに信頼関係が構築されている医者の言葉であれば、『信じる』というお母さんは多いでしょうが、医療機関で嫌な思いをした……例えば『医者に冷たい態度を取られた』『病状が良くならなかった』といった経験があった場合、医者よりママ友の言葉を信じてしまうのだと思います」

 そのため加納先生は診療において、何よりもまず、母親から「信頼を得ること」が大事だと語る。特に小児科においては、「お母さんが処方した薬を家で使ってくれるか、お子さんの症状の変化に気づいて受診してくれるかがとても重要で、いわばお母さんも『医療チーム』の一員。そのため信頼関係が大事」だそうだ。

「病院において、子どものお母さんに対し、『考えが間違っている』という態度で接すると、その後受診してくれなくなります。なので、『この先生は子どものことをしっかり考えてくれている』と思ってもらうことが大切なのです。例えば『ステロイドは使いたくない』というお母さんがいたら、『じゃあ保湿剤であれば塗れますか?』と代案を勧めたり、『ステロイドのどういった点が不安ですか?』と質問したりして、こちらの言葉を受け入れてもらえるようにします」

 加納先生は「自然派ママも医療従事者も『子どものために』という気持ちは同じです」と語る。自然派を信じ切っている母親に、考えをあらためてもらうのはなかなか難しいだろうが、もし身近に、偏った育児に“走りかけている”母親がいたら、その根底には「子どものため」という思いがあるのだと理解した上で、「こういう考えもあるよ」と声をかけてみるといいのかもしれない。
(解説=「ゆめこどもクリニック伊賀」院長 加納友環先生/取材・文=サイゾーウーマン編集部)


加納友環(かのう・ともわ)
三重県伊賀市小田町「ゆめこどもクリニック伊賀」院長。2児の父親である小児科医ということから「パパ小児科医(ぱぱしょー)」の名で、育児情報サイト「ぱぱしょー.com」を運営。Twitterやインスタグラムでも情報発信を行っている。
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最終更新:2020/03/08 16:00
小児科診療ガイドライン〈第4版〉 ─最新の診療指針─
いろいろな考えに触れることが大事だね