カルチャー
【後編】朝日新聞社・仲村和代記者インタビュー

ファストファッションとアパレル業界の闇――消費者が考えるべき労働環境のこれから

2020/03/05 21:00
サイゾーウーマン編集部

仲村和代記者

――生産者の労働環境やエコを意識したブランドなどを、教えていただけますか。

仲村 全ての現場を確かめたわけではないので、具体的なブランド名を私の口からお伝えすることは避けたいと思います。目安にするとしたら、例えば、「どこで作られているのか」「回収した古着をどのように使っているのか」といった情報を企業が開示しているかどうか。より具体的であれば、信頼度も高いと考えていいと思います。最近は、実際に作っている生産現場の人との交流の場などを設けているブランドもあるんですよ。「この人が勧めたから」「こう書いてあったから」という理由でどこかのブランドを買うことより、消費者一人ひとりが、自ら一つひとつ知ろうとする動きこそが、大切なのではないかと思っています。そうやって調べながら、「自分なりに納得のいくブランド」を探す、そして企業に対しても声を届けていく、ということを目指してみてはどうでしょうか。

――もし、企業側が出すデータがウソだったとしても、消費者はわからないですよね。

仲村 確かに、判断は難しいですね。私自身も、すごく悩みます。最近は、正しい情報を開示しているかどうかを判断するシステムを作ろうという動きもあります。また、消費者から「情報を知りたい」「そういった仕組みが必要」という声が大きくなれば、国や機関が動く可能性もあるはずです。企業に直接問い合わせるのも有効な手段ですが、ハードルが高いという人は、まずネットで検索するだけでもいいのでは。その検索ワードの数が集合知となって、企業側に「この世代は、服を買う時に環境問題も気にしているんだな」と伝わるかもしれません。「常に、100%正解」を目指すのは正直、難しいと思う。でも、そういう積み重ねが大事なんじゃないかと思います。

――不況と言われる昨今、収入が増えないなどの悩みを持つ消費者は多いため、今後もファストファッションに一定の需要は見込まれると思います。自分たちができることはなんでしょうか。

仲村 私自身は、ファストファッションブランドがいけないとか、購入してはいけないとか、そういうことは全然思っていません。中には、持続可能性に目を向け、とても力を入れているところもありますし、大事に着て、うまくおしゃれを楽しんでいる人はとても素敵だな、と思います。ただ、とりあえず安いから買って、着なくなったら捨てればいい、という風潮は、そろそろ変わってほしいですね。「エシカル」を打ち出しているようなブランドは高くて買えない、という声も聞きますが、無理をして買う必要はないと思います。消費者の側も、「無理なく続けられる」、つまり持続可能であることが大切だと思います。

 考え方として、目の前の値段ではなく、最終的に何回くらい着られるのか、いわゆる「コスパ」を考えると、買い方は変わるのではないでしょうか。例えば、千円のものを5回着て捨てるよりは、1万円のものを100回着る方が、「安上がり」です。長く着る、という観点で、それに見合った品質かどうかを基準にすれば、意外と「高くない」と感じるかもしれません。そもそも、先ほど大量に服が処分されていると話しましたが、焼却するにも費用が掛かりますし、そのコストが販売価格に上乗せされていると考えると、安いように見えて、結構、消費者は損していると思うんです。アパレル業界は、「新商品を販売するサイクルが短すぎる」とよく言われていますが、みなさんが1着を大切に扱うようになれば、いずれ業界を変えることができるかもしれません。

――1着を大切にすることが当たり前になると、アパレル企業は成り立たなくなる気もしますが……。

仲村 確かにそういう声は多く聞こえてきますね。ただ、アパレル企業に限らず、長年日本企業が続けてきた薄利多売のビジネスモデルは、もう限界に来ているのではないでしょうか。まだ物がなく、人口も増えていく時代であれば、生産量を増やすことがそのまま利益にもつながった。ところが、長い不況が続いてデフレ傾向になり、生産コストや人件費を削り、長時間店を開けることで何とか利益を確保しようとして、企業も、働く人たちも疲弊しています。

 目指す方向のヒントになりそうな話を先日、とあるアパレル関係の方からうかがいました。そこは「長く使える」ことを売りにしているメーカーなのですが、新しくお店を始める時に、「セールはしない」「廃棄を出さない」ことを目標にしたそうです。このため、カラーや柄など種類は絞る一方で、セールをしなくても買ってもらえるような商品づくりに力を入れました。品薄になっても補充はせず、なんとお店を休みにしてしまったそう。おかげで、従業員はしっかり休め、年間を通して考えると、利益も確保できたそうです。売り上げよりも利益(売り上げからコストを引いたもの)に着目すると、商売のあり方も少し変わるのでは。

 大量生産、大量廃棄は、環境への負荷も大きい。目先の業績だけでなく、長い目で見て社会全体の利益を考える姿勢が、企業にも求められる時代になっていると思います。物や人を使い捨てることなく、従業員や環境・社会全体の“幸せ”を追求することが当たり前になるといいですね。

仲村和代(なかむら・かずよ) 
朝日新聞社会部記者。1979年、広島県生まれ。沖縄ルーツの転勤族で、これまで暮らした都市は10以上。2002年、朝日新聞社入社。長崎総局、西部報道センターなどを経て10年から東京本社社会部。著書に『ルポ コールセンター 過剰サービス労働の現場から』、取材班の出版物に『孤族の国』(ともに朝日新聞出版)、共著に『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』(光文社新書)がある。
Twitter: @coccodesho

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最終更新:2020/03/05 21:00
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