BTS、NCT、PRODUCE48ほか……K-POPのメジャージャンル「Moombahton」を知る21曲
――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。2月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!
今月の1曲‖KARD – RED MOON
KARAがいることで有名なDSP Media所属、男女混合4人組グループ・KARDの新曲「RED MOON」です。Moombahtonについては、いつ特集しようかとずっと考えていたのですが、“Moombahtonと言えば”なグループが新曲をリリースしたので、このタイミングで取り挙げたいと思います。
KARDのすごいところは、デビューから今まで3年間ずっとMoombahtonをタイトル曲として活動しているところです。こちらがデビュー曲ですが見事にMoombahtonです。
■K.A.R.D – Oh NaNa
さて、先程からMoombahton、Moombahtonと言っているとおり、今月はMoombahtonについて解説したいと思います。ちなみにMoombahtonは日本語だと「ムーンバートン」(略してムンバなど)と呼ばれることが一般的ですが、実際の発音はカタカナで書くなら「ムーバトン」が一番近いそうです。
年始のEDM特集にも、しれっとKARDの楽曲をMoombahtonとして挙げましたが、こちらもまたEDMという大きいくくりの中の一つのジャンルです。しかし今まで説明してきた、さまざまなジャンルが絡み合って段々と新たなジャンルが生まれるような流れとは違い、Moombahtonは成り立ちがとてもわかりやすいです。
時は2009年、DJのDave Nadaは高校生のいとこが仲間内で集まり家の地下室で定期的にやっているラテン系のパーティーでDJをするよう頼まれます。そこではBachataやReggaetonがかかり盛り上がっており、Dave NadaがMoombahのAfrojack remix(本来はBPM138のもの)をBPM108まで落としてかけたところ、その場は狂ったように盛り上がったそうです。
■Silvio Ecomo & Chuckie – Moombah (Afrojack Remix)
本来はDutch Houseジャンルの曲のBPMを落としたことでReggaetonのリズムになり、ラテン系のジャンルに慣れた人たちにも親しみやすいものとなったのでしょう。この流れからもわかるように、「Moombahton」とは、「Moombah」という曲名がジャンルの「Reggaeton」と合わさったものになります。ちなみに、この楽曲のBPMを落とすという手法は90年代後半、アメリカ南部のヒューストンにてDJ Screwが生み出したChopped & Screwedと呼ばれるRemixの手法で、昨年8月の記事で早回しについて少し説明しましたが、その逆ということになります。
BachataとReggaeton〜Moombahtonの世界的ヒット
Moombahtonができる、まさにその場でかかっていたBachataとReggaetonについて少し説明します。
Bachataは中南米のドミニカ共和国発祥のジャンルです。南米では音楽とダンスは切り離せない存在で、ダンスのジャンルが先行してでき、音楽のジャンルになっているものもあります。左右に2ステップを踏むのが基本の動きで、ほかのラテンジャンルに比べ腰を使う情熱的なダンスが特徴。曲は4拍子で4拍目にアクセントがありスローテンポでロマンチックなラブソングが多いです。
Reggaetonは90年代後半、プエルトリコで流行っていたスペイン語のReggaeとプエルトリコの音楽(Salsa、Bomba、Plenaなど)がHiphopから影響を受け出来たものです。本来Raggaeはジャマイカの音楽であり英語が原則でスペイン語で歌われることはなかったのですが、スペイン語が公用語のパナマにパナマ運河の労働者としてジャマイカや英語圏のカリブ海の人たちが出稼ぎに行ったことを機に文化が混ざり、90年代前半頃からこのような楽曲が増えて行きます。
■Vico C – Bomba Para Afincar
この曲は最初Hiphopっぽく始まりますが(0:20~)、5小節目(0:30~)からReggaetonっぽいビートになり、その後この2種類のビートを繰り返します。
こちらは1997年のIvy Queenの『The Noise Live』という公演で、リズムはほぼReggaetonですが当時はまだその定義はなくRap&Reggaeと呼ばれています。段々とReggaetonが形作られていき、2004年N.O.R.E.の「Oye Mi Canto」のヒットで世間的な認知を受けます。
その後「Oye Mi Canto」にも参加していたDaddy Yankeeの「Gasolina」が国際的にヒットし世界をReggaetonが席巻します。当時欧米圏のエンタメを必死に追っていた身としては、レゲエとは違うまた新たな南米音楽が出てきてあっという間に広がり、「日本でもはやってる!」というイメージでした。
その後2010年2月にカナダはバンクーバーで行われた冬季オリンピックにてDave NadaがMoombahtonをプレイし、後を追うように既存楽曲のMoombahton Remixがリリースされ、どんどんとMoombahton楽曲が量産されていきます。Moombahtonのはやる少し前に同じようにブームがあったTrapやDubstepなどのクラブミュージックのジャンルも、既存楽曲をそのジャンルに落とし込みやすい傾向があったため、楽曲が量産され、瞬く間に広がったのかなと思います。
早いうちからMoombahtonに目をつけていたプロデューサー、トラックメイカーのDiploとSkrillexは自分のツアーやラジオにDave Nadaを呼んだりDiploのレーベルMad DecentからMoombahtonのコンピレーションをDave Nadaにリリースさせたりします。クラブシーンとしては、13年頃にはもうMoombahtonは栄光を失ったと言われますが、15年にDiploの所属するダンスユニット・Major LazerとDJ Snake名義でリリースされた「Lean On」で世間一般的にMoombahtonが知られます。
■Major Lazer&DJ Snake – Lean On (feat. MØ)
この曲は当時、洋楽をかじっていた方なら知らない方はいないほどヒットした楽曲で、その後SkrillexがプロデュースしたJusin Bieberの「Sorry」もリリースされ、それぞれ今現在27億回、32億回再生されています。
ちなみに17年にリリースされたLuis FonsiとDaddy Yankeeの「Despacito」はReggaetonですが、2010年代にYoutubeで最も再生された(およそ65億回)楽曲だそうです。