台湾、アジア初の同性婚法制化から1年――Netflix映画『先に愛した人』が映す偏見のリアルと、社会変化
日本の国会に相当する台湾・立法院にて、同性婚を容認する特別法が成立し、施行されたのは2019年5月。あれから約1年たった今、台湾はアジア初の同性婚容認国としてどのような変化を遂げたのか。今回は、男性同士の恋愛を扱った台湾映画『先に愛した人』に触れながら考えていきたい。その前に、まずは、同性婚の法制化を促したある事件を振り返ろう。
19年にこの法案が成立した背景には、ある同性カップルの事件があった。「同性愛」に関しては、台湾でも長年議論され続けてきたが、この事件をきっかけに民意が「同性婚賛成」に傾いたと言っても過言ではないだろう。
16年10月16日、フランス国籍を持ち、台湾大学の教授を務めていたジャック・ピクゥ(Jacques Picoux)さんが自殺した。彼は同性愛者であり、その1年前に伴侶のズン・ジンチャオ(曾敬超)さんを病気で亡くしていた。2人は35年間パートナーとして同棲生活を送っていたという。台湾でささやかな家、そして車を購入し、共に余生を過ごそうと誓い合っていた。しかし、フランス国籍を持つジャックさんは、法律上台湾でローンを組むことができなかった。そのため、家も車もズンさんの名義で購入していた。このことが、ズンさんの逝去後、ジャックさんを苦しめることになるのだった。
法律上、ズンさんと婚姻関係を持っていないジャックさんに遺産を継ぐ権利はない。ズンさんの親族は、家や車などを自らの物だと主張し、国も法に従ってその主張を承諾した。パートナーのみならず、お金を出し合って購入した家も車も失ってしまったジャックさんは、2つの台風が上陸したその年に荒れ狂う天気の中、マンションの10階から飛び降りた。
死の直前まで一緒にいたという彼の元教え子は、「先生は絶望の中で『あの家を燃やしてしまいたいよ』と笑っていた。冗談かと思っていたのに……あの財産は先生の物であるべきでした」と涙ながらに話している。
このニュースが現地メディアで報じられると、「こんな悲しい事件を社会は二度と起こすべきではない」という世論が少しずつ形成されていった。LGBTQにも、一国民としての保証や法の庇護が必要であると声を上げるメディアも増えた。そうした気運の中で行われた国民投票によって、「同性婚」を認める法案が可決されたのである。