虐待を受けた子どもの苦しみを理解する重要性――NHK『クロ現』「虐待後」を生きる~癒えない心の傷~
2月26日に放送されたNHK『クローズアップ現代+』、「『虐待後』を生きる ~癒えない“心の傷”~」が大きな反響を呼んでいる。その番組内容について、都内の児童相談所に心理の専門家として19年間勤務し、『告発 児童相談所が子供を殺す』(文藝春秋)などの著書がある山脇由貴子氏が考察する。
2月26日、NHK『クローズアップ現代』で、虐待されて育った若者たちが紹介された。人との関わりが持てず、生活保護を受けながら一人暮らしをする若者。半グレ集団に所属し、違法薬物所持で実刑判決を受けた若者。自立援助ホームで生活しながら、複数の男性と性的関係を持ってしまい、妊娠して、中絶した17歳の女の子。番組には虐待を受けた子どもたちの生きる苦しさやつらさが映し出されていた。
私も、児童相談所に勤務している間、親から虐待を受け、施設で生活をしなければならなくなった子どもをたくさん見てきた。そういった子どもの心の傷は本当に深く、短期間で癒やされるものではない。
しかし、児童相談所も、子どもを親から離し、安全な場所である施設に入れることがゴールと考えがちだ。その後の子どもたちの心のケア、自立に向けての支援は決して十分ではない。国も、児童相談所強化プランを打ち出しているが、保護後のケアについての方針は何も出していない。虐待を受けた子どもの苦しみが理解されていないからだ。
児童相談所が子どもに関われるのは18歳まで。児童養護施設も原則高校卒業で退所となる。奨学金をもらいながら進学する子もいるが、虐待を受けた子どもたちには頼れる親はいない。だから、必然的に高校を卒業した後は自立を強いられる。
虐待など受けず、健康に育った子どもでも18歳で自立するのは難しい。それなのに、心に傷を負ったままの子どもたちは、18歳でいきなり生活場所を失い、面倒をみてくれる人もいなくなり、相談できる人もいない中で、自立しなくてはならないのだ。
番組内で紹介された若者と同様、虐待を受けた子どもは人との関わりを持つのが難しい。自分を否定され続けて育ったために、叱責を受け止める力がなく、叱責にも弱い。暴力を振るった親を思い出す、といったフラッシュバックを起こすからだ。加えて、人に対する安心感がなく、人を信頼できないからだ。本来なら自分にとって最も安心できる存在であり、守ってくれるべき親が自分を脅かす存在だったのだから、誰に対しても安心できず、信頼できないのは当然のことだ。
だから仕事を続けるのが難しくなる。また、うつ状態になってしまい、外に出られなくなる。人の視線が怖い、常に悪口を言われているような気がする、という症状によって、人との関わりが難しくなるのだ。