カルチャー
インタビュー

ストロングゼロで「自殺行動」「暴力」も――松本俊彦氏が“ヤバイ酒”に警鐘

2020/01/24 19:30
サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman

――「ストロングゼロを規制」という点に関しては、反対の声も出ていました。

松本 Facebookに投稿した時点では、まさかこれほどまで反響があると思っておらず、実際のところは、僕自身、本気で規制はできないだろうなとは感じています。アルコール消費量のコントロールは、アルコールを違法薬物にすることによってするのではなく、課税(酒税)によって行うべきものだと思います。ヨーロッパのいくつかの国では、アルコール度数が高ければ高いほど税率を上げていく方式を採用していますが、それはなぜかと言うと、健康被害はアルコール度数の上昇に従って深刻化していくからです。つまり酒税率を上げることによって、国民がアルコール度数の高いものに簡単にアクセスできないようにし、国民の健康を守るという狙いがあるのです。

 しかし日本の場合は税収ありき。従来税金が高いアルコールは、多くの人たちが飲むビールでしたが、税率の低い発泡酒が登場し、広く世間に行き渡ったところで、国はその一部の税率をビールと同等に引き上げた。そうして、税率の低いストロングゼロのようなものが出始めたという流れです。たとえもし本当に、ストロング系チューハイの酒税が引き上げられるといった規制が行われても、また別のものが出てくると思いますよ。

――国がアルコールによる健康被害を後押ししてしまっているような格好になっていますね。

松本 2013年に成立した「アルコール健康障害対策基本法」が翌年施行され、国を挙げて国民をアルコールの健康被害から守り、また依存症からの回復支援を促していくことになったのですが……。ビールよりはるかにアルコール度数の高いものが、アルコールが苦手な人や子どもでも飲めるような格好で出回っていることに関しては、やはり考えていかなければいけないと思います。ストロング系チューハイがはやってから、コンビニの飲料コーナーの風景がガラリと変わったことにお気づきでしょうか。ギラついたパッケージのアルコール度数の高いお酒が何段にもわたり並んでいる。しかもそれが、24時間いつでも買える。海外の人が見たらびっくりすると思いますよ。

 日本は違法薬物に厳しく、逮捕された芸能人を激しくバッシングする一方で、お酒に関しては本当に寛容。薬物依存症の治療に携わっている身として、違法薬物はNGだけど、合法のアルコールはOKという線引きをすることではなく、そこはフラットに考えていかなくてはいけないと思っています。

――現在ストロングゼロは、安価かつ簡単に酔える酒として、ネット上でネタのようになっています。「飲む福祉」「虚無の酒」などと呼ばれているのですが、この状況をどのように感じますか。

松本 ネタとしてとりあえず飲んでみて、味を覚えてハマッていく人もいるのかもしれませんね。ただ一方で、これだけネタになるのは、皆さんストロングゼロで、痛い目を見たことがあって、「これはヤバイ酒だ」と思っているからなのではないでしょうか。僕がFacebookに投稿したものが、これほど拡散されたのも、同じ理由なのではないかと感じるのです。飲めない人、酒の味が嫌いな人は、別に飲まなくていい――そういった意識をもっと持ってほしいと思いますね。

松本俊彦(まつもと・としひこ)
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年佐賀医科大学医学部卒業後、国立横浜病院精神科、神奈川県立精神医療センター、横浜市立大学医学部附属病院精神科などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事。『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』(講談社)など著書多数。

最終更新:2020/01/24 19:30
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