カルチャー
朱野帰子インタビュー

なぜ人は「エセ科学」にハマるのか? マイナスイオンへの“無批判”が孕む危険[朱野帰子インタビュー]

2020/01/14 18:00
サイゾーウーマン編集部

――マーケティング会社では、美容系商材を扱っていた経歴があるそうですが、美容商材を売る上で、女性の心をつかむような戦略はありましたか?

朱野 あります。美容雑誌などで目にするのは“恐怖マーケティング”です。「私の後ろ姿が母に似てきた」ってキャッチフレーズで脅しておいて「加齢のせいだ」と原因を示し、「こういうことをすれば防げる」と救いの手を差し出す。「※個人の感想です」を加えることもある。エセ科学をつくるのは簡単です。でも、それって自己啓発系の記事でもよくやる手法だし、小説でもできてしまう。作り手がどこまでやるかの倫理的な問題もある。

 私が担当していたのは大企業の商品でした。法の監視下にあるので、「ない効果」を「ある」とは言えない。だから厳密にエセ科学商品と言えるかというと、違うかもしれない。でも中小企業は大企業の商品をまねる戦略に出ます。彼らは違法な表現も厭わない。「これを飲めば痩せる」とか。嘘だとわかっていて買う消費者もいるでしょう。

――騙されてるかもしれないけど、もしかしたら効くかもといった期待や興奮にお金を出す側面があるのかもしれません。

朱野 パワーストーンだって心の底から「絶対に幸せになれる」と思って買う人は少数だと思います。神社のお守りと一緒で気休めだとわかっているけど、エンタメとして消費をしたい人もいる。そうやって売る側と買う側のリテラシーがマッチしていれば害はないと思うんです。ただ、売る側も買う側も効果を信じ込んでしまっているパターンもある。

 マイナスイオンという物質についても、存在するかどうかをそこまで真剣に考えている人ってほとんどいないと思います。ドライヤーとしての性能を総合した結果、髪がきれいになればよいと思っている消費者がほとんどではないでしょうか。ただ、そういうものを無批判に受け入れていった先に、家族の病気や出産などで直面した「不安」に漬け込んで、お金を払わせたり、治療を遅らせたりするような商品と出会ってしまうことはあると思うんです。

――エセ科学を使った商法は、どれだけ批判されてもなくなりませんよね。

朱野 私は科学を信じる側の人間なので認めたくないですが、エセ科学的なものが心身の痛みを和らげてくれることもありますよね。病気になったときに「生存確率は50%です」と言われて、それを受け入れられる人がどれだけいるか。「このパワーストーンを持っていれば大丈夫」と言われた方が救われることもある。エセ科学は必ずしも害悪ではない。エセ科学が全くない世界は、それはそれで息苦しいし、救いがないですよね。

――本書では母乳信仰、自然分娩信仰というテーマにも触れています。それについて「生温かい科学」と書いていますね。

朱野 エセ科学側の人たちって現実を受け入れられない気持ちに寄り添ってくれたり、希望を持たせてくれたりする。だから優しい世界に一見見えるんです。それに対して科学はすごく「冷たい」。出産に不安を抱えて、我が子だけは助かってほしいと願う親に、「この確率で流産します」と宣告するのが科学です。

――女性の方がエセ科学に興味を持ちやすいんでしょうか?

朱野 女性は美容好きが多いので、早めにエセ科学に触れるかもしれません。妊娠出産に対する関心が高いこともあるでしょう。子どもに予防接種する・しない、などの決断を迫られるのも大体の場合、母親です。科学とエセ科学の境界に向き合わされる場面が多いんだと思います。男性は60代くらいまで老いを感じない人がいると聞いたことがありますが、老いを感じてから先は、女性よりもハマる人が多い印象があります。

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