コラム
“ジェンダー”を考える2019年映画レビュー

【2019年映画レビュー】劇場版『おっさんずラブ』に学ぶ、LGBTを“線引き”しないということ

2019/12/30 18:15
國友万裕(大学講師)

『天才作家の妻 40年目の真実』……時代錯誤な“内助の功”がマイナスポイント

 一方で、今年イマイチだった映画は『天才作家の妻 40年目の真実』です。この映画、これまで7度も候補になりながら、まだ一度もアカデミー賞を受賞していない名女優のグレン・クローズが主演で、今回ようやく主演女優賞に輝くだろうと期待されていたのですが、結局、『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンが受賞しています。

 クローズといえば、80年代に社会現象となった映画『危険な情事』(87年)で、キャリアを優先させたがために結婚のタイミングを逸し、妻子ある男をストーキングしてしまうヒロインを演じています。『天才作家の妻 40年目の真実』でも、ノーベル文学賞を受賞した夫の“ゴーストライター”である妻を演じました。クローズは1947年生まれで、60年代後半から70年代前半にかけて起こった「ウーマンリブ運動」の際、ちょうど20代に突入した世代。ちなみに、日本を代表するフェミニストの上野千鶴子さんと同世代です。「男女平等」が盛んに叫ばれる時代を生きた彼女が、“キャリアを持つ女性”を演じたいという気持ちはわかります。

 しかし、「成功する男の陰には女の力があった」という話は、これまでにもいくらでもあったため、クローズの演技以外は、これといって特筆すべきところのない映画になってしまいました。物静かでありながら、夫への激しい怒りと葛藤を内に秘める妻を演じたクローズの素晴らしさに見とれて、映画全体の不備は忘れてしまいますが、設定的にもかなりむちゃな話です。もっと小さな文学賞だったら、妻が裏で書いていたということもあり得るでしょうが、ノーベル賞となると話が大きすぎて、あり得ないと思えてしまいます。クローズの演技のみを見る、ワンウーマンショー的な映画だったと思います。

 映画では今も、妻がかいがいしく料理を作って、夫の面倒を見ている場面が出てきますし、“内助の功”に徹することが女の使命だと信じている女性はまだまだ多いのでしょう。しかし、それはもう時代に合っていない。もっと21世紀的なディテールを描いてもらわないと、今映画化する意味がありません。小品として見るのであれば悪くない映画ですが、アカデミー賞を与えるとなると「?」と判断されたのでしょう。気の毒だけど、クローズにはまた再度のオスカー受賞のチャンスがあることを願っています。

次回……『アナと雪の女王2』前作に比べ停滞感あり、メッセージ性も薄く/映画評論家・ 真魚八重子氏

國友万裕(大学講師)

京都大学・同志社大学・龍谷大学・京都女子大学・京都外国語大学などで、非常勤講師を勤める。専門は男性ジェンダーの立場から見た映画の分析。著書に『マッチョになりたい!? 世紀末ハリウッド映画の男性イメージ』(彩流社)や『BL時代の男子学~21世紀のハリウッド映画に見るブロマンス~』(近代映画社)などがある。

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最終更新:2020/01/08 11:06
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