コラム
“ジェンダー”を考える2019年映画レビュー

【2019年映画レビュー】劇場版『おっさんずラブ』に学ぶ、LGBTを“線引き”しないということ

2019/12/30 18:15
國友万裕(大学講師)

 2019年に公開・配信された映画を、ジェンダーやフェミニズムの視点から紹介する本企画。第2回は、『マッチョになりたい!? 世紀末ハリウッド映画の男性イメージ』(彩流社)、『BL時代の男子学~21世紀のハリウッド映画に見るブロマンス~』(近代映画社)などの著書を持つ、男性ジェンダー研究家の國友万裕氏に「ジェンダー意識が高いオススメ作品」「ジェンダー意識が低いイマイチ作品」映画を聞いた。

第1回……フェミニスト視点で「オススメ」「イマイチ」作品は?/武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授・北村紗衣氏

“実在の人物”だから、同性愛者が受賞? 「アカデミー賞」の惜しいところ

 この頃、あちこちでLGBTへの理解を深めるための催し等が行われています。これをきっかけに、LGBTへの理解が深まるのは悪いことではないと思いますが、しかし私は、“LGBT”と“非LGBT”の間にハッキリとした線引きをすることは、間違いだと思っています。ジェンダーやセクシュアリティはスペクトラムで、人によってグラデーションが違っているだけのこと。「100人いれば100通りの性がある」という考えにたどり着くのが、“性の解放”です。食べ物の好みのように、年齢によっても変わるものだという考えになれば最高ですね。

 私は、ジェンダーとセクシュアリティの角度から、長年映画を見てきました。その上で、映画でのLGBTの描き方は、着々と進化しているように感じます。アカデミー賞は“保守的な賞”とされていますが、年を追うごとにLGBTへの理解は深まっています。2006年に作品賞が本命視されていた『ブロークバック・マウンテン』が受賞を逃した時は、「ゲイ差別」だと騒がれましたが、16年には黒人のゲイを主人公にした『ムーンライト』が作品賞を受賞。今年2月に発表されたアカデミー賞では、主演男優賞(『ボヘミアン・ラプソディ』のラミ・マレック)、主演女優賞(『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマン)、助演男優賞(『グリーン・ブック』のマハーシャラ・アリ)と、演技賞4部門のうち3部門が“同性愛者役”に行きました。

 ただ物足りないのは、今年アカデミー賞を受賞した同性愛者役の3人が、いずれも“実在の人物”を演じたということ。アーティストや歴史上の人物に同性愛者がたくさんいると知らない人も多いですから、それを世間に知らしめるためには、アカデミー賞の受賞で脚光を浴びるのは歓迎すべきことですが、そもそも『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(11年)のメリル・ストリープや、『博士と彼女のセオリー』(14年)でスティーヴン・ホーキングを演じたエディ・レッドメインが主演で賞を獲得しているように、アカデミー賞が実在の人物役を好むことは有名。伝記としてではなく、LGBTのありふれた生活を描く映画で受賞が増えれば、理解が深まるのになあ、と思わずにはいられません。

ジェンダー意識が高いオススメ作品

『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』……これまでにない男性同士の恋愛を提示

 そういった意味で、2019年に放送されたドラマ『きのう何食べた?』(テレビ東京系)は、とても楽しいものでした。西島秀俊と内野聖陽がゲイカップルを演じていますが、料理を介して、男二人の微笑ましい共同生活が描かれていました。ただ、これも難を言えば、二人の性格が“ステレオタイプ”です。内野演じる矢吹賢二(ケンジ)は美容師ですが、デザイナーなども含め美を追求する職業は、ゲイの人の常套的な職業です。一方、西島演じる筧史朗(シロさん)は几帳面で、節約家の弁護士。彼のようにこだわりが強くてシニカルというのも、ゲイによくあるイメージです。つまり、両者ともゲイをステレオタイプ化してしまっているので、その部分がベタでした。「実際にはもっと違ったタイプのゲイもいると思うけど?」とツッコミを入れたくなります。それに、料理が得意な西島がネコ(女役)という“疑似男女”な設定もステレオタイプ。男女の関係を男同士の関係にすり替えるだけでなく、従来のLGBTのイメージを超えるような作品の登場を期待してしまいます。

 そこで私は、ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の映画版である、『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』を2019年のオススメ映画として挙げたいと思います。映画そのものはコメディで、ドラマを見ていない人には、その面白さが伝わらない部分もあると思われます。しかし、これまでにないタイプの男性同士の恋愛を提示したことで、この映画は記憶に残るものになったはずです。主役の田中圭が偏見のない、どこにでもいそうな男ぶりというのも好ましいですね。

 何よりも、ステレオタイプにしていない。田中扮する春田創一も、吉田鋼太郎扮する黒澤武蔵も、女性と付き合ったことがある“普通のサラリーマン”として描かれています。これはコメディでありドラマ・映画ですから、必ずしも現実に忠実である必要はありません。しかし、異性愛者が同性愛に目覚めることは実際にありますし、基本はゲイではないけども、相手次第では同性に恋するケースもあるはずです。「愛は国境を超えるる」「愛は年の差を超える」というケースは昔からありますが、「愛は性別を超える」という関係を示したことが、何よりもいいのです。

 『劇場版おっさんずラブ ~LOVE or DEAD~』では、登場人物がサウナに大集合する場面で、“上裸の男たち”をたっぷりと見ることができます。ゲイ向けの映画では、男性の裸を“性的なもの”として描き、濃厚なベッドシーンを入れることもありますが、この映画では日常の風景として、男性の肉体美を見せていました。例えばトム・クルーズ主演の『トップガン』(86年)や、ブラッド・ピット主演の『ファイト・クラブ』(99年)といった“男同士の友情”をテーマにした映画でも、男性の裸を見せる場面が出てきます。要するに、男性同士の裸の付き合いは、ゲイの人だけではなく、ストレートの人にとっても美しく見えるもの。ゲイとストレートは、重なり合う世界だということです。

 『おっさんずラブ』はシリーズを通して、露骨に「ゲイ」という言葉がほとんど出てきません。これからの世の中、「僕、彼と“おっさんずラブ”なんです~!」なんて関係が増えていけば、人生はもっと楽しく、自由になると思います。

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