カルチャー
インタビュー

我が子を“ブラック部活”から救うために――保護者と顧問が「定時帰宅を徹底」するべき理由

2019/12/20 21:00
佐藤真琴(編集・ライター)
内田良氏

 2016年8月、『クローズアップ現代+』(NHK総合)が「『死ね!バカ!』これが指導? ~広がる“ブラック部活”~」と題し、中学・高校の部活動において、顧問から生徒に“ハラスメント”が行われている実態を特集した。「死ね、消えろ!」といった暴言だけでなく、日常的な体罰、1カ月に3日しか休めない長時間拘束が行われている現状には、視聴者から大きな反響があった。それ以降、「ブラック部活」という言葉が世に広がり、改善へ向けた問題提起や、現場での取り組みが活発に。18年には、政府が部活動に関する「ガイドライン」を策定し、「週当たり2日以上の休養日を設ける」といった具体的な基準や、体罰の禁止について明文化された。

 しかし、それから1年たった現在も、部活の“ブラック化”がもたらす問題はなくなっていない。今年4月には、茨城県高萩市の卓球部で、顧問の男性教諭から「バカ野郎」「殺すぞ」といった暴言を受けた女子生徒が自殺。同部は全国大会の出場歴がある強豪校で、男性教諭もベテランの指導者だったという。また、「ガイドライン」の策定をきっかけに、記載された休養日を守らず、“自主練”と称して強制的な練習を行う「闇部活」も、新たな問題として浮上している。

 時に尊い命を奪うこともある「ブラック部活」は、なぜなくならないのだろうか? そして、子どもが部活動で苦しんでいる時、親には何ができるのだろうか? 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授であり、前出の番組にも出演した、内田良氏に話を聞いた。

明確な制度がない、無法地帯な部活動

――いち早くこの問題に取り組んできた内田先生は、「ブラック部活」をどういった状態の部活動だと捉えているのでしょうか。

内田良氏(以下、内田) 最も主眼に置いているのは、「やりすぎている部活」です。さらに言えば、「やりすぎているせいで、安全・安心が損なわれている部活」に関心があります。例えば、休養日がなく毎日活動、1日何時間も拘束するといった「練習のやりすぎ」、大会やコンクールが毎週末あって休めない「大会のやりすぎ」、顧問や指導者が生徒に暴言・体罰を加える「指導のやりすぎ」、校内に練習場所が取れず、狭い校庭や体育館をいくつもの部活で分け合って使う「同時にやりすぎ」などがあり、どれも生徒や先生の安全・安心を脅かすものです。

――18年3月には「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が、同年12月には「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が、それぞれ策定されました。この中には、体罰の禁止や管理体制のほかに、休養日や適切な練習時間の設定についても基準が設けられています。それにもかかわらず、なぜ「やりすぎ」が起こるのでしょうか。

内田 「健全でない部活=ブラック部活」をなくしていくために、このガイドラインの策定は“前進”でした。しかし、今回策定されたのは「ガイドライン」ですから、必ず守らなければいけない決まりではなく、“目標”レベルのことなんですよね。法的な拘束力はなく、違反した場合にペナルティが科されるわけでもありません。

 部活動は、授業と違ってきちんとした“制度設計”がなく、これが大きな問題です。授業には「学習指導要領」というはっきりとした制度がありますが、部活には「ガイドライン」のみ。すると、狭い校庭を複数の部活が分け合って使うことが問題視されず、ストレッチをしている陸上部の隣で、サッカー部がボールを蹴るといった、事故が起こりやすいシチュエーションができてしまいます。体育の授業で場所が足りないとなれば、体育館か学校自体をもうひとつつくることになります。でも部活には制度設計がないため、そもそも「広さ○平方メートルに対して、活動できる部活はいくつまで」といった決まりもない。なので、なかなか状態が変わらないのだと思います。

――生徒や先生を守るはずの「ガイドライン」ですが、現場からは反発も多いようです。それはなぜでしょうか。

内田 やはり、「部活は楽しいから」「やりがいがあるから」でしょう。練習や大会が大きな負担であっても、そこに楽しさややりがいを感じていると、自粛するのは難しい。子どもたちが楽しんでやっていれば、大人たちも規制しにくいのでしょう。

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