老人ホームを断固拒否! 要介護4の母抱える社員のピンチ、超ホワイト企業が取ったスゴい行動
社内に、介護をしながら仕事もちゃんとやって母親を看取った女性社員がいたので、その人から斎藤さんに助言をしてもらってはどうかという案も出た。
「その女性社員も『私でお役に立てるなら』と乗り気でした。でも、その社員と斎藤さんとはタイプが違いすぎました。その社員は、総合職で仕事もできる。うまく介護サービスを利用していたので、参考になるかと思ったのですが、斎藤さんはどう見てもそういう才覚があるとは思えない。よく言えば癒やし系。ほわーっとしていて、こちらが何か言っても、どこまでわかっているのか今ひとつつかめない。うまく介護と仕事を両立した社員の話を聞いても、同じようにできるはずがない。斎藤さんがさらに自信をなくす可能性もあったので、この話は流れました」
さらに正木さんは、知り合いやそのまた知り合いまでたどって、斎藤さんが介護離職しなくて済むためにどうしたらいいのかアドバイスを求めた。斎藤さんの住む自治体の担当者やケアマネジャー、民間の相談機関まで……正木さんは単なる上司以上の動きをしていたのだ。
「ただ個人情報の関係で、いくら彼女の上司とはいってもこれ以上は踏み込めないというラインがあって、最終的には彼女が動かないとどうしようもないというところで終わるんです。今のケアマネが、彼女の深刻な状況を把握していなくて、適切なケアプランを示すことができていないのが一番の問題だろうと、何人もの人に言われました。彼女との信頼関係が築けて、彼女一人が抱え込まなくてもいいような方法を提案できるケアマネに替えないことには始まらないと言われました。しかし彼女は、『そんな余裕はないし、母に合うケアマネをどうやって選べばよいかわからない。地域包括支援センターも紹介してくれない』と言う。
だったらもうお母さんを施設に入れるよう、こちらでおぜん立てをしてあげようと、民間の相談機関の人に会社まで来てもらって、お母さんを施設に入れる必要性から施設選びのアドバイスまで、それは丁寧に説明してもらったんです。彼女さえ『はい』と言えば、私も一緒に施設探しや見学に同行するとまで言ったのですが……」
それでも、斎藤さんは煮え切らない返事をするばかりだった。ついには、正木さんもしびれを切らして、「もうどうなっても知らんぞ」と投げやりな言葉が出かかったという。
これほど情の厚い大企業に、一般職とはいえ斎藤さんはよく入社できたものだ。幸運と言うほかない。それにしても、ここまでくると斎藤さんや正木さんが担当する仕事にも影響が出ていたに違いない。他人事ながら心配になった。
ところが、というか、そのうえ、というか、この会社はとんでもなく懐が広かった。
――続きは12月21日公開