『ザ・ノンフィクション』祖父母の子育て支援という高い壁「娘がシングルマザーになりまして… ~29歳の出張料理人 彩乃~」
ただ今回は好条件が重なった「奇跡」だとも思った。
まず、彩乃と孝志の相性がいい。気が強くそれゆえにさまざまなことに挑める彩乃と、そんな娘のガッツを尊敬しつつ、穏やかに見守る孝志。孝志が彩乃のすることにいちいち口を出すタイプだったら衝突の末、孝志が“お里に帰る”ことになっていただろう。それぞれの領分に余計な口を出さないでいるのは簡単ではない。だから今日もさまざまな職場や家庭で火種が爆発しているのだ。
さらに「孝志が子育てに積極的」なのも幸福だった。孝志自身自分の子ども(彩乃にとっての兄)を死産で失っており、子どもを思う気持ちが強かったのはあるのかもしれない。一方、孫は年に数日やってくるから可愛いのであり、子育てまでは勘弁してほしいという祖父母だって少なくないはずだ。祖父母にだって、当然彼らの人生や都合がある。
何より、孝志がまだ62歳と若い祖父であることが大きい。以前産婦人科医師を取材した際に、高齢出産の弊害として、高齢である妊婦の妊娠や出産のリスクだけでなく、高齢出産はおおむね「高齢祖父母の誕生」につながることを話していた。60歳の祖父母は育児を手伝う戦力足り得るが、70歳の祖父母だとそれが体力的に難しくなってくる。自身が介護を必要とする側になる可能性だってあるのだ。若く見える中高年は増えたが、体力や体の中まで若返ったわけではない。高齢出産が進むということはそれだけ「手伝いたいんだけど体がついていけない」祖父母も増えている、ということなのだろう。
今回はうまくいってよかったが「祖父母と協力した子育て」はかなりの難関だな、と思ってしまった。12月1日のザ・ノンフィクションも「娘と父」がテーマになる。『女32歳 きょうからプロレスラー ~父への告白~』。
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂