カルチャー
[官能小説レビュー]

性への探究心は強いが男は大嫌い! 女性官能作家の性の解放を爽快に描く『蜜味の指』

2019/11/11 21:00
いしいのりえ
『蜜味の指』(幻冬舎アウトロー文庫)

 数年前、女流官能小説家が多く輩出される時期があった。女流官能作家バブル期である。中年男性層をメインターゲットとする官能小説業界において、「女流官能作家」というジャンルは、その肩書だけでも注目される。

 日本では、まだ女性の性については明るくはない。日本女性は貞淑であるはずが、エロい小説を執筆する女性が存在している――それだけで、出版社は、読者は興味をそそられるのである。しかも、執筆者本人が美しければなおさらのこと。

 今回ご紹介する『蜜味の指』(幻冬舎アウトロー文庫)は、『まん・なか -You’re My Rock-』というタイトルで映画化もされている作品である。

 主人公は、女流作家の紫城麗美――本名の「山中典子」から、親しい友人には「テンコ」と呼ばれている。彼女はデビュー5年目の官能小説家である。3歳年上の柚寿とは仲が良く、時々酒を飲みながら語り合う仲だ。

 テレビの取材などで堂々とエロい言動をするテンコだが、実は性経験は「事故セックス」であった2回しかなく、自覚があるセックス経験は皆無。反対に、昔からセックスに興味があった柚寿は、性に対して奔放で、正反対の経験を持つ2人は相性が良く、時々仕事の愚痴を共有し合っている。

 テンコ自身は、ずっと性に対して強い興味を抱いていた。20代前半の時に2度経験はしたが、どちらも気持ち良くはなく、むしろ性欲に溺れて獰猛に腰を振る男たちが気持ち悪いとすら感じてしまったのだ。以来、テンコは男が大嫌いなままになっている。

 居酒屋で一緒に飲んでいた柚寿と別れたあと、泥酔したテンコはひとりの男性と出会った。アダルトビデオの助監督をしている楠田である。男たちに絡まれていたテンコを助けた楠田は、足元がおぼつかずにえづいているテンコを、自宅へ招き入れる。

 その日も楠田はアダルトビデオの撮影現場にいて、女の裸は腐るほど見ているのだが、目の前で、自分のベッドに横たわっているテンコを見ていると「仕事」の時のようにはいられない。目を覚ましたテンコと話していると、酔いが回った彼女は楠田に口づけ、ベッドへと誘ってゆく――。

 一夜を共にした2人だが、テンコはその夜、何が起きたかは覚えておらず、逃げるように楠田の部屋を出た。その後、仕事でアダルトビデオの収録現場を訪れた時、2人は思わぬ再会をするのだが――。

 エロいものを書いているから「エロい」とは思われたくない、という半面、心の中には性に対する探究心を強く抱いているテンコ。そんな彼女の心の歪みがバランスよく描かれていて、同性ながらも主人公を応援したくなってしまう。

 楠田の手ほどきに導かれ、これまで心に秘めていた性を解放するテンコの様子は、読み進めていくうちに爽快に感じられる。心のくすぶりを解き放つ一冊である。

最終更新:2019/11/11 21:00
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