『ザ・ノンフィクション』目黒・虐待死事件考察

DV・虐待者の「更生・回復プログラム」を考える――『ザ・ノンフィクション』「目黒・結愛ちゃん虐待死事件」

2019/11/02 19:00
森田ゆり

 10月27日に放送された『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)「親になろうとしてごめんなさい~目黒・結愛ちゃん虐待死事件~」が、ネット上で大きな反響を呼んだ。船戸雄大被告の友人・知人から話を聞き、その人物像に迫るといった内容だったが、虐待加害に至った親の回復プログラムを開発し実施している一般社団法人「MY TREE」代表理事の森田ゆり氏は、彼の姿をどのように見たのだろうか。

 昨年3月、東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(当時5歳)が両親から虐待され死亡する事件が起こり、義父の船戸雄大被告は、懲役13年の判決が確定しました。雄大被告は公判で内面の多くを語らず、元妻の優里被告が自分の公判と彼の公判で、恐怖で解離しながらも自分を語ろうと言葉を紡いだのと対照的でした。公判で雄大被告が語った少ない言葉の端端だけから彼の人間性をあれこれ推測することには、意味を見いだせません。

 この事件とほぼ同時期に起きた、千葉県野田市の虐待死事件も、DVと子ども虐待が併発している「家族内ダイナミックス」(家族内の力学)への理解なしには検証できません。検察も判事も裁判員も、その十分な理解がないままに公判が展開し、判決が下されたことは残念です。

雄大被告が語る「自分のエゴ」とは何か

 雄大被告が公判で語った「理想のしつけ」とは、子どもや妻をまるで自分のロボットであるかのように思う通りに操作し、形成することの喜びと快感を求める“支配とコントロール”でした。公判中、雄大被告が何度も「自分のエゴを強要した」という表現を用いたことや、『ザ・ノンフィクション』を見ても、それがうかがえます。


 雄大被告には、以下に挙げる典型的なDV加害者の価値観、心理と行動が見て取れました。

1)理想の家庭では、その「主人」である自分の考えに皆が従うものだ。何が正しいかは自分が決める。妻や子どもが自分に従わないときは、威嚇や説教や暴力で自分の思う通りにさせるのは当たり前だと考えている。身体的暴力や言葉の暴力で妻や子どもを従わせることで自分の優越性を実感できるので、そのことに多大なエネルギーを注ぎ、充足感を覚える。雄大被告が「バカ嫁」「バカ娘」と暴言を繰り返して優里被告と結愛ちゃんへ長時間にわたる説教をし、終わると「説教をしてくださってありがとうございました」と謝辞を述べさせていたことは、筆者が今まで関わったDV事例でも何度か見てきた支配の方法である。

2)「外からどう見られるか」に細心の注意を払って行動するため、しばしば仕事場、同性の友人たちからの評判は良い。真面目、礼儀正しい、義理堅いなどの印象を持たれることが多い。内の者からは崇め奉られ、外の者からは善き普通の人として認められたいとの承認欲求が、人一倍強いためだ。

3)家庭内での人間関係を操作する。そのよくあるやり方は、家庭内の「主人」としての自分の地位を維持するために、スケープゴートを1人つくって、自分の問題から目をそらさせる。時にそれは、母親がいじめと暴力のターゲットになり、家庭内のすべての問題は母親のせいにされる。ターゲットが子どもになることもある。雄大被告は結愛ちゃんをスケープゴートにすることで、妻を自分の支配下に置くことに成功していた。家族内のすべての問題は、結愛ちゃんのせいにされていた。自分が仕事につけない苛立ちも、結愛ちゃんのせいにされていたかもしれない。

4)妻を支配することに強い執念を抱く。その執念は、とりわけ妻が離婚や別居をしようとする時に常軌を逸する行動として現れる。「別れ話」が出た時は、加害者の攻撃性が最も顕著になる危険な時である。自分の“所有物”である相手が自分から離れていってしまうことは、DV加害者にとって自我の拠り所を失う危機で、何が何でも阻止しようとする。2017年4月には兵庫県伊丹市で、離婚後面会交流中に父親が4歳の娘を殺害し自殺した。DV加害者が離婚や別居後、子どもを殺す事件は、アメリカでは過去11年間に700件以上起きており、その多くが元伴侶への復讐心からだった。これは新たなタイプの子ども虐待として、大きな社会問題になっている。


母親の孤独から回復する 虐待のグループワーク実践に学ぶ