フードコートに巣食う「万引き老女グループ」の実態! まるで「鬼婆」――Gメンも恐怖!
とある雨の日、摘発のチャンスは突然に訪れました。午前中に、おにぎりとカップ酒を盗んだホームレス風の人を捕まえ、警察に引き渡して店に戻ると、老女グループのリーダーらしき女が珍しく一人で店内を徘徊していたのです。恐らくは、私の姿がないことを確認し、油断しているのでしょう。米や日本酒、アマニ油、和牛ステーキ肉などの商品をカート上のマイバスケットに入れた彼女は、私の視線に気付くことなく、商品が満載されたカートをフードコート内に持ち込みました。フリーサーバーで手に入れた紙コップ入りの緑茶を片手に、店内の様子が見渡せるいつもの席に着くと、犯罪者特有というべき鋭い眼光で周囲の様子を窺っています。その顔は、尼崎連続殺人事件の主犯格であった角田美代子元被告に似ていて、ひどく不安な気持ちになったことを覚えています。
(出るまで、しばらくかかるかしら。自分の姿を見られないようにしないと……)
動きのないまま20分ほど経過したところで、彼女とは違うグループの老女2人組がフードコートに現れました。すると、どこか居心地の悪そうな顔で立ち上がった彼女は、使用したカートはそのままに、未精算の商品を入れたマイバスケットを左手に持って歩き始めます。絵に描いた鬼婆のような顔で後方を振り返りながら、店の外に出た彼女に近づいて声をかけると、この上なく苦い顔で返されました。
「店内保安です。なんで声かけられたか、おわかりですよね」
「あら、いやだ。また、あなたなの。みんなやっているのに、なんで私ばっかり」
「そんなの関係ないですよ。ちょっと事務所まで来てもらえますか」
「嫌よ、離して。これ、返すから!」
すると、年齢にそぐわぬ力強さで商品が満載されたカートを振り回した彼女は、それを私の右腕にぶつけて逃走しました。痛みをこらえて追いかけると、すぐ近くに駐車された古い軽自動車の脇で、激しい手の震えによりうまく鍵を差し込めないでいる彼女を発見。車と彼女の間に割り込む形で、震える彼女の右手を押さえた私は、努めて冷静な口調で問いかけます。
「ちょっと、落ち着いて。事務所まで来てくれたら、それで大丈夫だから」
「嫌よ。どうせまた、すぐに警察を呼ぶんでしょう。あたし、あんたのせいで30万もとられたのよ。(商品は)返したんだから、それでいいじゃない」
どうやら私に捕まえられたことで、罰金刑を受けたことがある人のようですが、まるで記憶に残っていません。事務所への同行を促しても、両足の爪先を上げて歩こうとしないので途方に暮れていると、先程フードコートに現れた二人組の老女が店から出てきて言いました。
「ちょっと、Tさん。あんた、なにしてんのよ。一体、どうしたの」
顔見知りらしき老女たちに声をかけられたことで、正気を取り戻したらしい彼女は、ようやくに事務所への同行に応じました。
「あんた、なんであたしばっかりいじめるんだよ。近所の人にまで見られて、恥ずかしいじゃないか……」
近所に住む人に声をかけられたことで、逃げても仕方がないことを悟ったらしい老女は、警察に引き渡されると執行猶予中のみであることが判明。この日を最後に、この店のフードコートから姿を消しました。
この件以降、加勢してくれた老女グループの人たちから、ことあるごとに不審者情報をいただけるようになった私は、より一層居心地の悪い現場で仕事をすることになりました。いてくれるだけで防犯になると、店長は喜んでくれているので、もうしばらくの間は抜け出せそうにありません。なにもないのが、一番大事。保安の仕事は、本来そういうものだと、この仕事の奥深さをあらためて思い知った次第です。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)