『ザ・ノンフィクション』元受刑者への支援は“甘え”なのか?「半グレをつくった男 ~償いの日々…そして結婚~」
『ザ・ノンフィクション』では元受刑者や、彼らを支援する人たちがテーマになる回がよくある。2019年4月21日放送の「その後の母の涙と罪と罰」では、薬物売買で逮捕されたタカシ(仮名)は出所後、教会に身を寄せ立ち直ろうとするのだが、挫折し今度は覚せい剤の使用で逮捕されてしまうまでの日々が放送されていた。
タカシは介護職に就き、最初は頑張ろうとしているが、徐々に勤務先へ行けなくなっていく。確かにふがいないのだが、カタギとしての生活経験がないタカシが、介護職というハードな職に、おそらく時短勤務ではなくフルタイムで入るのは、挫折しやすいのではないかと思ってしまった。
今回、汪は出所したケンジを知り合いの建設会社の取締役に紹介するが、シフトに融通を利かせるスロースタートを提案していた。そもそも、受刑者たちは「カタギのきっちりした生活」が苦手だったり、できなかったりするから犯罪に手を染めてしまうのであり、汪のやり方は実情に即した、自信の芽を育みやすいやり方に思える。
こういったスロースタートな支援に「甘えだ」という批判はあるし、実際甘えもあるのだろう。だが、そこで「自己責任だ」と突き放したところで再犯に走ってしまうだけだ。そして、こういった「困った人」たちは、その人固有の性格のだらしなさでそんなふうになっていったというよりは、育った境遇――例えば、家庭の貧困や不和などで「困った人」に育ってしまった、という方が多いのではないだろうか。そして困った人の親も困った人で、その親もまた、という気の遠くなるような連鎖があるのだろう。
ケンジを従業員として引き受けた汪の知り合いは、汪のことを「神様みたいなもん、すごくいい方、見たことない」と話していたが、番組を見ているとこの言葉は決して大げさではなく聞こえる。汪は人並外れた使命感を持つ、立派な人だ。だからこそ、結婚した妻との出会いが汪からの一目惚れだったというエピソードは、自分の幸せを追求する情熱もあるのだなと、人間らしさを感じさせて、なんだかホッとした。
次回の『ザ・ノンフィクション』は「母と娘の上京それから物語 ~夢のステージ ある親子の8年~」。舞台女優を目指し上京した娘・渡邊美代子と娘の夢を過剰なまでに応援し続ける母・美奈世のステージを目指す日々。
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂