カルチャー
児美川孝一郎氏インタビュー【前編】

「教育改革」で学校に新たな動き! 「目標達成主義」と批判渦巻く「キャリア・パスポート」を考える

2019/09/28 16:00
安楽由紀子

――「キャリア・パスポート」の望ましくない使い方はありますか。

児美川 懸念されるのは「評価の材料」に使われることです。学校が無理に目標を立てさせて到達したかどうかを測るようになると、生徒はがんじがらめになりますし、知恵がついた子は「達成できそうなこと」しか書かないようになる。それでは本来の目的を損ねるものになる可能性もあります。うまくいくかどうかは各教育委員会の度量次第。各校一斉に同じことをさせるのではなく、ある程度学校に任せて、そこに即した無理のないやり方を編み出してもらえればいいように思います。また、子どもたちに「何のために書くのか」を理解してもらわないと、単なるやらされ仕事になってしまいます。

――確かに、「面倒なことをやらされている」と感じる児童生徒もいそうだな……とは思ってしまいます。

児美川 学習や活動を通して、何を感じたのかを振り返り、記録することは悪いことではありませんが、児童生徒がやらされて書いたのでは、効果的ではない。「これは意味がある」とわかるように、素直な小学校低学年のうちに、「キャリア・パスポート」の面白さを感じてくれるような指導をすれば、その後もスムーズに行くかもしれないですね……。時間はかかりますが。

――ちなみに、「自己評価制度、長期的なプランニングの窮屈さ」「子どもたちから自由さを奪うのでは」といった批判、疑問の声がありますが、どう思いますか。

児美川 まだ実施されていないですし、前述したように“ふんわり”したことしか決められていないので、誤解している人も多いのだと思います。企業の人事管理と同じように考えて、目標管理と成績が連動するとしたら、それはみんな嫌に決まっています。最も誤解を受けがちなのは「評価」という言葉ですが、あくまで生徒の自己評価であり、先生は評価するのではなく指導の材料にするだけ。エバリュエーション(evaluation)ではなくアセスメント(assessment)。その子の状態を探って支援、指導に生かすと考えればいいでしょう。

――自己評価をするにしても、「目標から外れてしまうといけない」という見方があると問題だと思います。

児美川 そういう使い方が継続的に行われれば確かに窮屈ですし、計画した通りにしか動けないプランニング型の思考しかできなくなってしまいます。やはり、いい方向に生かせるかどうかは学校および教員の力量によるとも言えます。

(後編につづく)

児美川孝一郎(こみかわ・こういちろう)
1963年生。東京大学教育学部卒、東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。法政大学文学部教育学科専任講師、助教授を経て、2003年よりキャリアデザイン学部助教授、教授(現職)。著書に『若者とアイデンティティ』(法政大学出版局)『権利としてのキャリア教育』(明石書店)『若者はなぜ「就職」できなくなったのか』(日本図書センター)『「親活」の非ススメ』(徳間書店)『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)などがある。

最終更新:2019/09/30 11:20
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