どうなる「介護保険」――

「要介護1、2の保険給付外し!?」と大騒動! 親は、家族はどうなる――介護のプロが語る

2019/09/22 16:00
坂口鈴香

「介護保険制度が変わったら、何が起こる?」現場の声は――

 では、実際に要介護1、2の人への生活援助サービスが市町村の総合事業に移行すると、どんなことが起こるのだろうか。そして要介護者や、その家族にはどんな影響があるのか。介護現場をよく知るケアマネジャーと介護サービスを提供する事業者にお話を伺った。

「サービスの質の低下は避けられない」
ケアマネジャーMさん……首都圏の県庁所在地に勤務
 認知症の方の場合、要介護1、2というのは認知症の初期症状が出ている状態。介護度が上がるにつれて抑うつ、意欲低下、徘徊、物盗られ妄想、暴言などの周辺症状がひどくなっていきます。要介護2で認知症だと、こうした症状がかなり目立つようになっていますね。認知症ではない場合、要介護2になると室内でも歩行器、屋外では車いすを使っているような状態。こうなると一人暮らしの方の場合、食事づくりや掃除などを一人ではできないので、生活援助サービスを使っている人が多いです。その際、要介護者の残存機能を生かした自立支援をしつつ、要介護者とともに家事を行うのがヘルパーの仕事。単に家事だけをしているわけではないのです。

◎認知症の悪化の可能性も?
 私が担当している方に、認知症で要介護1という男性がおり、生活援助サービスとして、ヘルパーが食事づくりと掃除をしています。この生活援助サービスが市町村の総合事業に変わっても、おそらく今のヘルパーを変えることなく、サービス内容はそのままで利用し続けられると思います。でも、市の財源が不足するとヘルパーから有償ボランティアに替えるということもあり得えます。また、新たに同じ状態の方が介護サービスを利用しようとすると、最初から有償ボランティアがサービスを提供する可能性はあるでしょう。こうした有償ボランティアには、市も一定の研修を課すとは思いますが、生活援助とはいえ、認知症の方へ適切な対応をすることができなくなることは十分考えられます。資格のあるヘルパーと有償ボランティアとではスキルに差があるのは当然で、サービスの質が低下することは否めません。そうなると認知症が悪化する可能性も出てくるでしょう。

◎住んでいる「場所次第」でサービスが異なるのでは
 とはいえ、今の介護保険制度でできることは多いし、サービスも手厚いのは事実。適切なサービス提供によって、外に出ることができなかった要介護2の方の状態が改善するようなケースは少なくありませんが、その一方、「お手伝いさん感覚」で生活援助サービスを利用している人もいないわけではありません。
これから団塊の世代が後期高齢者に突入すると、国の介護保険財政は一気にもたなくなるでしょう。全員が納得する制度はないのだから、持続可能な介護保険制度にするためには、今回の介護保険部会での議論も、ある程度理解はできます。ただ、市町村の総合事業に移行すると、サービスの質や量が市町村によってまちまちになるのではないでしょうか。豊かな市町村や、やる気のある地域包括支援センターなら、元気な60代をサービス提供側として活用するなど、地域性を把握してその地域に合ったサービスを展開できるかもしれませんが、うまくいかない市町村も出てくるのでは。高齢化が進む市町村ほど、事業を進めるのは大変になると思います。どんなサービスが受けられるかは住んでいる場所次第となると、それでいいのかなとは感じますね。

「要介護者の家族にも影響が出るだろう」
介護サービス事業所幹部Hさん……首都圏でグループホームやデイサービスを運営する事業所幹部
 介護サービスを提供する事業者として、介護保険を将来的に持続可能なものにしないといけないという認識はあります。これからも必要な人に、介護サービスを提供していくためには、独居で重度な人へのサービスを手厚くする一方で、家族と同居している人や軽度な人にはサービスが手薄になるでしょう。


 すでに、介護保険の給付抑制の流れは始まっています。介護認定でも、要介護3以上の判定は出にくくなっていて、以前なら要介護3に認定されていたような人が、今は要介護1や2としか判定されないという実感はあります。介護を提供する側からいうと、軽度の方に対して、「ゼロの状態をプラスに変える」ような介護はできなくなり、重度の人の「マイナス状態をゼロにする」ので精一杯になりつつあるのです。「これで良いんだろうか?」という思いはありますが、今後そうしたサービスしか提供できなくなるのだと、我々も意識を変えないといけなくなるでしょう。

◎介護離職につながる――家族への影響は大きい?
 介護保険のコストを下げると、サービスを提供する時間や回数が減らされるでしょう。今もすでに減っていますが、さらに減るのは間違いないし、要介護1、2の人が使えないサービスも出てくると思います。それは、働き手の報酬にも影響してきます。新しく要介護1、2になった人は「そんなものだ」と受け入れることができても、すでにサービスを利用していた人は、これまで通りのサービスは受けられなくなる。そしてその水準は、市町村次第ということになります。

 要介護者の家族にも、大きく影響してくると思います。例えば、家族が同居していると、どうしても家族ができないと判断された場合を除き、生活援助サービスは受けられなくなるか、サービスが減るでしょう。要介護1だと、「基本的ADL(日常生活動作・起居動作、移乗、移動、食事、更衣、排せつ、入浴、整容など)」よりも高次の日常生活動作「手段的ADL」が低下している人……例えば「歩くことはできるが、買い物や食事づくり、掃除はできない」という人は、これまでヘルパーにそれらの生活援助サービスを提供してもらっていたのが、違う形でのサポートを受けることになります。近くに家族がいれば家族がやるとか、民間のサービスを利用するなどの選択肢も検討しなければならなくなるでしょう。

 さらに、これまでヘルパーは生活援助サービスを提供しつつ、プロの目で要介護者を観察して、重度化を遅らせるようなサポートをするという役割も果たしていました。プロに替わって家族が要介護者を見る目を養わないと、気がつかないうちに重度化しているということも起こります。親と関わっている人から情報を集める力も必要になるでしょう。また、ヘルパーが来ることでコミュニケーションが活性化するというメリットもありましたが、これを家族が埋めなければなりません。いずれにしても家族の関与を増やさないと、要介護1、2の人の状態は低下しますし、家族の介護離職につながるケースも出てくるのではないかと危惧しています。

◎要介護者に向けた怪しげなサービス増加?
 加えて、民間サービスに移行する傾向が強まると、要介護者に向けた怪しげなサービスが増加することも考えられます。すでに、「自費でできるマンツーマンのリハビリをやりませんか」とか、「介護保険では限界があってできないプラスαの部分を請け負います」というビジネスも出てきています。高齢者がよくわからないまま契約させられるケースも増えるでしょうし、家族はそうしたことから親を守る必要も出てきます。


 要介護1、2の人は、要支援・要介護者の約4割を占めています。今回の議論は、そこに団塊の世代が入ってくる前に何とかしたいという国の意向があるのは明らかです。この流れは加速することはあっても、戻ることはもとより止まることはないでしょう。

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